渡辺の役作りを導いた「監督からの言葉」

 今回演じた由起子は、自分の子供を失った女性でした。その心情がどういうものなのかは、想像していくしかありません。

 年齢や仕事、暮らしといった日常の地続きにある部分を考えていくと、彼女は決して特別な人ではない。街ですれ違っても、あまり気にかけられないような、そういう暮らしをしている、そういう印象から始まったらいいのではないかと考えました。

© 2025「無明の橋」製作委員会

 撮影は2~3週間ほどでしたが、若いスタッフチームとは死生観の違いを感じることもありました。大切な誰かを失うという経験をした女性を描き出すことは本当にできるのだろうか、どう再生していくのだろうかと。

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 でも、監督自身、先輩の息子さんが亡くなり、そのお母さんがずっと悲しんでいた姿を見て「どう励ましていいか分からなかった」という経験が、この映画を作る一つのきっかけになったと聞いて、その眼差しを頼りに探っていくことにしました。思いを馳せ体験していくしかないかなと。

© 2025「無明の橋」製作委員会

 この映画の中で一番の肝となるのは、由紀子がどこに辿り着くのかということですよね。何を探しているのかを一緒に見届けていただきたいです。彼女の旅に寄り添っているたくさんの存在を見つけていただけると嬉しいです。

 たとえば、冒頭の室井滋さんとのシーンなど。室井さん演じる、大好きな憧れの人物は由起子を見つめています。由起子は失ったものを一生懸命探しているけれど、その後ろから、その姿を見つめている人がいる。

 そう思うと、由起子が何かを見つめているように描かれていますが、実は彼女が見つめられている映画でもあるのかな、と私は思いました。

わたなべ・まきこ 1968年、東京生まれ。モデルを経て88年『バカヤロー!  私、怒ってます』で俳優デビュー。以降、数々の作品に出演し、日本映画界を支え続けている。

INTRODUCTION

3年に一度、富山県の立山で催される「布橋灌頂会」。古来山岳信仰の対象とされてきた立山は、江戸時代まで女人禁制とされ、女性は救済の道を閉ざされていた。そこで生まれたのが「布橋灌頂会」だ。立山の芦峅(あしくら)寺にある赤い布橋の手前をこの世、向こう側をあの世に見立て、白装束に身を包んで目隠しをした女性たちが橋を渡っていく。無事に戻ってくると、極楽浄土に行けるのだ。儀式は明治期にいったん途絶えたが、1996年に復活した。映画『無明の橋』は、心に深い傷を負ったひとりの女性が導かれるように「布橋灌頂会」に参加し、そこで出会った様々な人々や出来事を通じて、新たな一歩を踏み出すまでを描く。

 

STORY

15年前、愛娘を川で亡くしてからというもの、由起子(渡辺真起子)の心はうつろだった。由起子はある日、女人救済の儀式「布橋灌頂会」の存在を知る。写真を見ると、白装束を纏った目隠しの女性たちが、列を成して山に掛かる橋を渡る、この世のものとは思えない幽玄な光景が写しだされていた。立山へ向かった由起子に、思いがけない出会いが待っていた。

 

STAFF & CAST

監督:坂本欣弘/出演:渡辺真起子、陣野小和、吉岡睦雄、岩瀬亮、山口詩史、岩谷健司、木竜麻生、室井滋/2025年/日本/95分/配給:ラビットハウス/© 2025「無明の橋」製作委員会

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