引き取ったのは「スポットが当たらなかった」馬
――姫野さんが引き取ったトキメキシオンという馬について教えて下さい。
姫野 正直、どの子にするか迷ったんですよね。でも1頭だけ私に懐いた子がいて……というか、いきなりドンって頭突きしてきたんですよ(笑)。「僕がいいよ」と訴えかけているみたいで、「じゃあこの子にしよう」と決めました。以前の馬主さんにも会いに北海道まで行き、そこで「この人だったらいいですよ」と許可してもらえました。
――トキメキシオンには騎乗しました?
姫野 一応乗ることはできるのですが、それなりの乗馬経験がある人でないと難しいです。乗馬や誘導馬になれるのは、気性が安定していて、調教が済んだ馬だけなんです。人に慣れていないといけないし、人の言うことを聞けなきゃいけない。でも養老牧場には、そうじゃない馬も入れるんですよ。
――なるほど。条件を選ばないという点は、繁殖や乗用馬とは大きく異なりますね。
姫野 馬房が空いていて受け入れ態勢を取れるなら、どのような馬でも預かってくれます。松原ステーブルスのいいところは、ちゃんと一生面倒を見てくれるところですね。どこかしらに引き取ってもらえるのは全体の1%だと聞いたので、余生を過ごせること自体がとても幸運だと感じます。トキメキシオンは血統は良かったんですけど、レースには出られなかった。そもそも出走できなくて、どうしようと引き取られた馬なんですね。まったくスポットが当たらなかった馬なのですが、私はそこにフォーカスしてあげたかったんです。
――それでも毎月預託料を払って一生面倒を見るのは大変なことだと思います。
姫野 とはいえ、距離的な問題もありますし、そうそう頻繁に会いに行けるわけでもなく、こちらとしては牧場の方におまかせしているだけなんですよ。ただ、命を預かっているわけですから、そこは責任感を持っていこうと思っています。

