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「べつに3次元でなくてもいいなって」

 決して性に無関心というわけではないヒカリのまわりには情報が溢れており、入手するのは容易いことだった。そんな彼女だが、中高で女子校に進んだことで、腐女子の度合いがより高まり、現実の男性への関心は遠いものになったようだ。

「女子同士でのエロトークはしなかったですね。せいぜい気に入ってるBLのここがエロイとかを話す程度です。べつに3次元(現実の男性)でなくてもいいなって思ってました。中高のときは電車通学中に痴漢が多かったんですけど、反撃したりして……。ただ、高校時代がいちばん自分で(自慰を)してました。ネット動画とかを見て、ほぼ毎日でしたね」

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 ストレートで国立大学に合格した彼女は、思春期以降で初めて同世代の異性が近くにいる環境に身を置いた。

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「まわりの話を聞いてると、男女交際のこともちらほら出てました。でも、私はどう接していいかわかんないので、あんまりそっちの輪には入らなかったんですね。性欲はあるんですけど、それは外に向かってじゃなくて、あくまでも自分で片付けてました。大学時代にはネット通販で電マ(電動マッサージ機)を買って、自分用に使ってましたし……」

 その言葉を聞いて間もなく、私の頭に疑問符が浮かぶ情報が入ってきた。ヒカリは大学1年から風俗の仕事を始めたというのだ。

「大学に入ってすぐ、塾講師のバイトをしてました。でも時間の割に給料が合わないって思ったんです。それで割のいいバイトをネットで探したら、ガールズバーがあって面接に行きました。そうしたら『ガールズバーじゃなく、こっちがある』ってピンサロでの仕事を切り出されて、断りきれなくて……」

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「与えられた仕事を忠実にこなそう」

 その店では女子高生のコスプレで客を迎え、やがて全裸になって全身を触られながら、最終的には口を使ってサービスするという仕事をしたという。しかも彼女は、そこで8カ月ほど働いたというのだ。

「もともとそこまで3次元の男の人に興味なかったので、機械的にこなしてました。さすがに最初の仕事をしたときは、こんな感じなんだって複雑な気持ちで一晩中考えたりもしたんですけど、触られるのはそこまで嫌じゃなかったし、給料が他のバイトより良かったんで続けてました」

 5、6時間の仕事で1日2万円にはなったとヒカリは話す。とくに生活が困窮しているといった理由ではなく、自分が自由に遣うためのおカネを稼ぐ目的だったという。それは決して割に合うものではないと考える私が、「とはいえ、いくら機械的にこなしたとしても、こんなことはさすがにイケナイって思いは生まれなかったの?」と尋ねたところ、彼女は意外な答えを返してきた。

「与えられた仕事を忠実にこなそうとしか考えてなかったですね」

 この意識について、“生真面目”との言葉が当てはまるのかどうか逡巡してしまう。だが、ヒカリのなかで“仕事”とは、一旦与えられたものであれば、その内容はどうあれ、完璧にやり遂げなければならないものなのだろう。彼女は振り返る。

「働いていたときは、給料いいし、求めてもらってるし、ということだけで続けてました。深く考えたりはしませんでしたね」

 私は、ただ金銭目的という理由で、みずから苦行に身を投じるかの如き行動に出る、ヒカリの真意を掴みかねていた。

『処女風俗嬢』はなぜ自分の恋愛に積極的になれないのか」に続く