ドレスコードなんて関係ない

 そして映画は1984年の大ヒット曲「ウェイク・ミー・アップ・ビフォー・ユー・ゴーゴー」、「ケアレス・ウィスパー」、さらに「ラスト・クリスマス」を立て続けに紹介。どれも日本でも流行ったから当時10代20代(今は50代60代)の方には懐かしく感じられるだろう。キャスターの男性が映画で語っている。

「だって『ラスト・クリスマス』は史上2番目に売れた曲だからね。1位はずっとバンド・エイドなんだ」

 バンド・エイドはイギリスとアイルランドのミュージシャンがエチオピア飢饉支援のため結成したチャリティ・プロジェクト。その曲「ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマス」はワム!の「ラスト・クリスマス」と同じ日に発売され、全英1位と2位を分け合った。映画ではバンド・エイドの一員としてスティングの横で歌うジョージの姿がチラリと映る。

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ジョージ・マイケル 1986年

 この頃、ジョージが破れたジーンズをはいて高級レストランに入ろうとしたことを知人が証言している。そんな姿が流行る前のことだ。知人が「ドレスコードがあるんだよ」と忠告したが、彼は「大丈夫さ。ドレスコードなんてジョージ・マイケルには関係ないって」。実際、何事もなくドアが開き、店で一番の席に案内されたという。彼の人気ぶりと、流行を先取りするセンスを物語る話だ。

”Saturday Superstore”1984年11月

「アー・ユー・ゲイ?」

 人気絶頂期にワム!は解散。ジョージはソロ活動に入り、ソロ・デビュー作「フェイス」でグラミー賞を獲得する。名声は高まり、レコード会社は彼をさらに売り出そうとする。しかし常に世間の注目を浴びることで心の葛藤が深まっていく。このあたりの描写が作品の大きな見どころだ。ある司会者がニヤニヤしながらいきなりぶしつけな質問をぶつける。

「アー・ユー・ゲイ?(あなたは同性愛者?)」

 ジョージは戸惑いながら「僕がゲイ? 最初からずいぶん率直な質問だね」と受けた後、「いや、違うよ」と否定。その上でこう切り返す。

「仮にそうでも誰にも関係ないよね。僕の音楽を聴く人にとって、昨夜僕がベッドで犬といたか男といたか女といたか、知っても何の得もないよね」

記者会見するジョージ・マイケル

 まことにその通り。甚だしい差別とプライバシーの侵害だが、80年代当時は同性愛への偏見が今よりはるかに激しかった。作られたジョージのイメージと彼の本当の姿が乖離していたのだ。