監督が語るジョージの心の動き
この作品の監督、サイモン・ネイピア=ベル氏はワム!のマネージャーを務めていた。監督にあの頃、ジョージの心の動きをどう見ていたか、オンラインのインタビューで聞いた。
「彼はワム!時代からカミングアウトしたがっていた部分がありました。ただ当時はイメージ的に難しかった。あの司会者から聞かれた時もすぐノーと言っている。その時に彼自身、自分に怒っていたのではないかと、あそこでカミングアウトすればよかったと後悔していたのではないかと思います。彼は非常に噓をつくことが嫌いな人間でしたし」
この頃、ジョージには恋人の男性がいた。ところが彼がHIV陽性とわかる。まだ有効な治療法がなく、感染で発症するエイズは不治の病と恐れられていた。そんな時、エイズで亡くなったロックスター、フレディ・マーキュリーの追悼コンサートが行われる。そこでフレディの代表曲の一つ「サムバディ・トゥ・ラヴ」を歌い上げるジョージ。それをステージの下で恋人が聴いている。彼のことを打ち明けられないことにジョージの苦悩が深まる。
さらにレコード会社との裁判、イラク戦争批判によるメディア王ルパート・マードック氏との闘いなど、巨大組織との争いで疲弊していく。そこからどのように人生を切り開こうとするのかが後半の見どころとなっていく。終盤、彼はインタビューで答えている。
「すべての注目が集まる人間として生きることは私生活に壊滅的な影響を及ぼしました。それでも生きていけるのは音楽があるから。音楽がなければこんな生き方はしていない」
名声で幸福になったことはない
つまりは幸せなんですね? と尋ねられると、
「いや、22歳の時から名声で幸福になったことはない。ずっと他の誰かになりたかった。名声が友情や恋愛やプライバシーに与える影響が大きすぎたから」
スターになりたくて「ジョージ・マイケル」という架空の人物を夢想した少年ジョージ。実際に名声を得たのに、作られた姿と現実の葛藤に苦しむ。そして迎えた突然の死。そこから続くラストシーンに、なるほど、冒頭のシーンはこの伏線だったのかとうなずく。
「彼の力はもう必要ないと感じたんです。彼は静かに逝きました」
“彼”とは誰で、誰が語っているのか、映画で確かめてほしい。あまりに切ない幕切れだ。
『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』
監督:サイモン・ネイピア=ベル/出演:ジョージ・マイケル(アーカイブ)、アンドリュー・リッジリー(アーカイブ)、スティーヴィー・ワンダー、スティーヴン・フライ、サナンダ・マイトレイヤ、ルーファス・ウェインライト、ディック・レイフィー/2023年/イギリス/94分/A PROTOCOL MEDIA PRODUCTION ©2022/配給:NEGA/公開中



