笑っていた世界が、次の日に消えてしまう
――広島の原爆ドームや平和祈念館には行かれましたか?
松本 はい。被爆された方など、いろいろな方にお話を伺いました。ドームを目の前にすると「怖い」としか感じられなかったです。大きな建物が一瞬でこんな姿に変えられてしまうのかって。一体なんなんだろうって。
――一瞬で世界が変えられてしまう。
松本 昨日みんなと笑っていた世界が、次の日に消えてしまうのが戦争なんだって思いました。
――物語では、そうした状況下で「もしかしたら死ぬかもしれない」という思いを抱く人も登場します。たとえば海軍として出兵するにあたって、すずを訪ねてくる幼なじみの水原さん。
松本 切ないシーンでした。監督からは「水原はもう二度と会えないと思って来てる。すずの温かさとか、人の生をもっと求めるように表現してほしい。すずもそれを受けてほしい」という演出がありました。たしかにこういう「もしかしたら明日死ぬかもしれない」という状況が、戦争という時代なのかもしれません。でも、それって今も変わらないという気もするんです。
97年生まれの私が、2018年に「すずさん」を演じる意味
――今に繋がっている部分があるということですか?
松本 戦争に限らず、すごく悲しい出来事がたくさん起こっている世の中だと思うんです。自殺だってそうですよね。何かがきっかけで昨日とは全く違う世界に変わってしまうというのは、いつの時代だってありうること。だからこそ、命の大切さとか「人の生」というものを、演じることで伝えていきたいって思います。
――97年生まれの松本さんが、はるか遠い昔のことを2018年に演じる意味は何だと思いますか。
松本 私が言っても薄っぺらな言葉になっちゃうと思うんですけど、戦争を経験した人から聞く「命の重さ」みたいなものは、今まで感じたことがないくらいズシンと来たんです。その感覚は、私たち戦争を経験していない世代が普通に語ったところでなかなか伝わらないものかもしれません。でも、すずさんの身体を借りてなら、今を生きる人に、私たちと同世代の人たちに何かを伝えていけるかもしれない。演じるって、人に伝える仕事だと思うので。一生懸命すずさんを演じて、これからも伝えるということを考え続けていきたいと思っています。
まつもと・ほのか/1997年生まれ。大阪府堺市出身。主な出演作品に映画『青空エール』(16年)、『世界でいちばん長い写真』(18年)テレビドラマ『ひよっこ』『平成物語』など。9月13日に写真集『Negative Pop』が発売。10月5日には出演映画『あの頃、君を追いかけた』が公開。
写真=鈴木七絵/文藝春秋