「セリフなし」「白黒映画」という大胆さ

 演技について言えば、僕はまず脚本に従って自分なりの芝居を作り、そのあと監督の修正や指示を聞くタイプだ。監督から特に注文がなければ、テイクが変わるごとに違う芝居をして、監督の選択肢を増やすようにしている。

©NIKO NIKO FILM/MOOLIN FILMS/CINEMA INUTILE/CINERIC CREATIVE/FOURIER FILMS

 監督は最初から「セリフなし」「70ミリフィルム」「白黒映画」で撮ると決めていた。その大胆さと勇気に感心した。作品はすでにスクリーンで三度観たが、今ではほとんど観られない種類の美しさを持つ芸術作品だと思う。観客にとってもほかの映画とは全く違う、唯一無二の鑑賞体験になるはずだ。観客はこの映画を観て、自由に想像を膨らませ、きっとそれぞれになにか特別なものを受け取るはずだと信じている。

 台湾の多くの評論家からは、『黒の牛』は僕の新たな代表作だと言われている。僕自身も、この作品が特別な1本になったと感じている。

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リー・カンション 1968年、台湾生まれ。俳優・映画監督。92年ツァイ・ミンリャン監督の『青春神話』でデビュー。主な出演作に『愛情萬歳』『河』『郊遊 ピクニック』など。リム・カーワイ監督『COME & GO カム・アンド・ゴー』(20年)にも出演。

INTRODUCTION

『祖谷物語─おくのひと─』(13年)の蔦哲一朗監督が完成まで8年の歳月をかけた壮大なスケールの映像詩。禅に伝わる悟りまでの道程を十枚の牛の絵で表した「十牛図」から着想を得て、狩猟民の男が一頭の牛と出会い、農民となって大地を耕し、やがて万物とのつながりを静かに視つめていく様を、全編フィルム(一部70ミリ)で撮影。主演はツァイ・ミンリャン作品のアイコンである台湾の名優リー・カンション。共演に田中泯。音楽に坂本龍一の楽曲を使用しているのも話題だ。

 

STORY

今は昔、災厄により住む山を失い、放浪の旅を続けていた狩猟民の「私」(リー・カンション)は、ある老婆(ケイタケイ)と出会い、ともに暮らすうちに農耕民族としての営みを身につけていく。やがて「私」は一頭の牛(ふくよ)を見つけ、連れて帰って世話をし始める。やがて犂を牛にひかせ、大地を耕し始めるが、なかなかうまくいかない――。

 

STAFF & CAST

監督・脚本・編集:蔦哲一朗/出演:リー・カンション、ふくよ、田中泯、ケイタケイ/音楽:坂本龍一/2024年/日本・台湾・アメリカ/114分/モノクロ&カラー/配給:alfazbet、ニコニコフィルム、ムーリンプロダクション/©NIKO NIKO FILM/MOOLIN FILMS/CINEMA INUTILE/CINERIC CREATIVE/FOURIER FILMS

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