「反キリスト」とは誰か

 ヒッポリュトス、オリゲネスら古代キリスト教の教父たちは、終わりの時に全世界を支配する暴君としてダニエル書が描くのは、新約聖書がいう反キリストのことだと理解していた。新約聖書のマタイ、マルコ、ルカの三福音書におけるオリーブ山説教において、キリストは「終わりの日に現れる偽のキリストたち」について警告している。ヨハネの手紙は「反キリストが来ると、あなたがたがかねて聞いていたとおり、今や多くの反キリストが現れています」(ヨハネの手紙一2:18)と告げている。パウロは反キリストを「不法の者」「滅びの子」(テサロニケ第二2:3)と呼んだ。最も鮮烈で不気味な姿では、反キリストはラブクラフトの怪奇小説が描く海洋怪物の原型のようなものとして『ヨハネの黙示録』に現れる。「わたしは海の砂の上に立って、七つの頭と10本の角を持つ1匹の獣が海の中から上ってくるのを見た」(黙示録13:1)。

「知は力なり」のフランシス・ベーコン

 キリスト教徒たちは、何千年もの間、これらの預言について議論を続けてきた。反キリストとはいったい誰なのか。いつ現れて、何を説くのか。政論家たちは、神学による定義が曖昧なのに付け入り、「反キリスト」の名を利用して政敵を攻撃した。ローマ皇帝ネロとドミティアヌス、預言者ムハンマド、神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世、数々の教皇、ピョートル大帝、ナポレオン・ボナパルト、アドルフ・ヒトラー、フランクリン・D・ルーズベルトなどが、よく反キリストだと疑われた。著述家にも反キリストの名を奉られる者たちがいた。フランシス・ベーコンがそのうちの1人である。

初出:Peter Thiel & Sam Wolfe, Voyages to the End of World, in First Things, October 1, 2025.

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※本記事の全文(約15000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(ピーター・ティール×サム・ウルフ「ピーター・ティールのワンピース論」)。全文では、以下の内容をお読みいただけます。
・『ガリヴァー旅行記』に登場する科学が存在しない島
・空飛ぶ島ラピュータと地上のバルニバービ
・ヤフー人=大患難に耐えるキリスト教徒

出典元

文藝春秋

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