世界27カ国で翻訳が決定した世界的ベストセラーで日本でも10万部超(電子版含む)の『西洋の敗北』で、仏の歴史人口学者・家族人類学者のエマニュエル・トッド氏は、「米国のエリートの劣化」を憂慮している。

エマニュエル・トッド氏 ©文藝春秋

「米国のエリートの劣化」を憂慮

〈1945年から1965年のアメリカは、個人的絆で結ばれた均質で首尾一貫したエリート集団に統治されていた。このエリートたちは、プロテスタンティズムの良いところは守り、悪いところは克服し、国内の他の人々と同じように共通の道徳規範に従っていた。その上で彼らは、自由の擁護を基軸とした責任ある外交政策を展開した──ただしアメリカの裏庭としてのラテンアメリカだけは例外で、アメリカが不治の邪悪な本能(人類に普遍的に見られる傾向だが)を吐き出す場所だった――。だが今日、「ワシントン村」は共通の道徳心を失った個人の寄せ集めでしかなくなっている。自分の行為や決断のために、彼らはもはや外部の価値観、特に上位の価値観としての宗教、道徳、歴史を参照しないのだ。これは非常に憂慮すべき事態だ。世界一の大国の指導者集団を構成する個人たちが、自らを超越するような思想体系にはもはや従わなくなり、所属しているローカルネットワークに由来する衝動で動いているからである〉(『西洋の敗北』)

トッド氏の著書『西洋の敗北』(文藝春秋刊)

 米国がベネズエラの大統領夫妻を拉致してニューヨークに連行したのは、まさに「憂慮すべき事態」だ。

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「プロテスタンティズムの消滅」を指摘

「西洋の勃興にプロテスタンティズムが大きく寄与した」というマックス・ウェーバーの分析に賛同しつつ、「今日の西洋の敗北(=西洋社会の内部崩壊)の最も重要な要因」として、「プロテスタンティズムの消滅」を指摘するトッド氏は、建築家の隈研吾氏との対話でもこう述べている。