占領地からの避難民が集まる施設に足を運べば、まだ占領地に親戚や知人が残っているという人はいくらでも見つかる。しかしぜひ紹介してほしいと頼むと、みな判で押したように「危険すぎて無理だ」との答えが返ってくる。
これまでのウクライナ取材では「窮状を世界に伝えてほしい」と前のめりに協力してくれる人がほとんどだったので、あまりのギャップに面食らう。過去に協力してくれた人たちにも「占領地の中の人を紹介してほしい」と頼んだが、似たり寄ったりの反応だった。この消極性は何を意味しているのか?
親子ですら本当のことは話せない「みんな天気の話ばかりしています」
そんな中、占領地にいまも両親が残っているアナスタシアという女性に出会った。両親に連絡をとり、取材に協力してもらえないか聞いてもらいたいと懇願する私たちにアナスタシアは言った。
「占領地では電話を誰に盗聴されているかわからないのです。メールもメッセンジャーも同じです。ロシアはすべてチェックしています。突然、秘密警察がやってきてスパイ容疑で人々を逮捕していくのです。あなたが占領地の中の人に連絡を取ろうとする行為が、相手にどのようなリスクを負わせているか理解していますか?」
それでもアナスタシアたちは私たちに1つの提案をしてくれた。彼女と両親が電話をする場面に立ち会わせてくれるというのだ。そして、電話の様子を見せられて、「危険すぎて無理」という意味をようやく理解した。
「お母さん元気?」
「ええ、お父さんと私は何とかやっている、大丈夫よ……」
1ヶ月に1度と決めているという電話は、わずか数分で終わった。久しぶりの貴重な親子の会話だというのに、会話はほとんど天気の話に終始する。アナスタシアが「危険はないの?」と水を向けても、母親は話題をはぐらかす。「占領」という言葉も「ロシア」という言葉も出てこない。アナスタシアは言う。
「実の両親とさえも、こんな会話しかできないのです。母は『ロシア人』という言葉を絶対に口にしません。どうしても必要なときは『彼ら』とか『お客さんたち』といった隠語を使います。占領当初はそんなことはありませんでした。次第に様子がおかしくなり、いまは内容のある会話をすることは諦めています。不用意な一言で、命を落とす可能性があるのです。生存確認のためだけの電話です」
このような状況下で、外国メディアの取材に協力してくれる人を見つけ出すことがいかに困難か。その後も手を尽くしはしたが目立った成果を上げられないまま、私たちの3週間のウクライナ滞在期間は過ぎていった。
その間わかったこともあった。ウクライナの現地メディアですら、占領地の実態をほとんど取材できていないということだ。日常に伝えるべきトピックが多すぎて、占領地の中までは取材の手が回らないし、関心が及ばないという実情もあるかもしれない。また過酷な実態を直視することの心理的な忌避感もあるように感じた。
結果的に、ウクライナメディアが取材できていないため、西側メディアも占領地の中にほとんど目を向けていない状況が生まれていた。そこは文字通りのブラックボックスになっていた。
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