対ロシアへの認識の甘さ

 この「戦略」は時に、米国政府を、あたかも中立的立場に立つ仲裁弁護士のように描き、米国の敵対国と同盟国とのあいだで和平交渉を取りまとめようとしているかのように位置づけています。

 文書には、「多くの欧州諸国はロシアを存立に関わる脅威と捉えている」と記されています。そして、「欧州のロシアとの関係を管理するには、ユーラシア大陸全体における戦略的安定の条件を再構築するとともに、ロシアと欧州諸国とのあいだで紛争が生じるリスクを緩和するため、米国による大規模な外交的関与が必要となる」と述べられています。

プーチン大統領 ©JMPA

 この一文を書いた人物は、ロシアが自ら始めた欧州での紛争を拡大させた場合、米国もまた戦争に巻き込まれるNATOの加盟国であるという事実を忘れているように思われます。実際のところ、モスクワがこれまで戦争をさらに多くの国々へ拡大せずにきたのは、「米国の外交的関与」のおかげではなく、NATO条約に基づく米国の集団防衛義務があったからにほかなりません。

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 トランプ大統領の「戦略」を読み進めるうちに、私は数十年前に初めて耳にした日本語の言葉を思い出しました。「平和ボケ」です。

 この言葉が日本で広く使われるようになったきっかけは、別の国家安全保障文書でした。1976年に公表された、日本で初めての年次防衛白書です。当時、日本の防衛専門家たちは、この白書がソ連からの脅威を軽視しているとして警鐘を鳴らしました。現実主義の立場からは、「あまりに平和主義的で、あまりに甘い」との批判が相次ぎました。要するに、「平和ボケ」しすぎている、という評価だったのです。

※マット・ポッティンジャー氏の連載記事全文(3500字)は、「文藝春秋」2月号及び、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています。全文では、以下の内容が語られています。
・中国国内の「平和ボケ」論
・カーターとサッチャー

出典元

文藝春秋

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