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勝った瞬間、日本に笑顔がなかった理由

 試合が突然終わったあと、銅メダリストになった日本の4人は呆然としているように見えた。そして静かに手袋を外し、イギリスの4人と握手を交わした。勝った日本チームに笑顔はなかった。それがカーリングの礼儀だからだ。

勝った瞬間、笑顔はなかった ©getty

 私は2006年、2010年にオリンピックのカーリング解説を担当した小林宏氏から、カーリングの手ほどきを受けた。そのとき、最初に言われたのは、この言葉だった。

「カーリングでは相手のミスで喜んではいけないんです。内心、よしっと思ってもいい。でも、それを感情で表現してはいけません。カーリングは相手を思いやるスポーツですから」

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 小林氏は2年前に亡くなったが、日本が勝った瞬間、私はこの言葉を思い出していた。

 日本の4人はイギリスの4人の心中を思いやり、健闘を称え合った。私は藤沢、吉田姉妹、鈴木夕湖の戸惑ったような感じを好もしく思った。うれしいけど、ここは相手のことを考えないと。特にミュアヘッドの気持ちを考えると——。

 そしてその後に、ようやく抱擁が許されたのである。かくもカーリングは奥深いのだ。

笑顔で手を振る(左から)吉田知、藤沢、本橋、鈴木、吉田夕 ©共同通信社