『オウム真理教の子どもたち 知られざる30年』(NHK「クローズアップ現代」取材班 著)

 昨年放送された番組を書籍化したものだが、筆者にとっては注目の一冊だった。というのも、筆者はふだん大学教員をしているが、余暇活動として多数の自助グループを運営しており、そのひとつが「宗教2世の会」であるからだ。

 かつてオウム真理教の拠点があった山梨県の「第10サティアン」という施設で53人の2世信者が集団生活から保護された。事件から30年ほどが経ったいまとなっては、彼らの行方を追うのも話を聞くのも難しい。本書は、まさにその課題に挑戦している。

 自分が望まない信仰を教団と親から押しつけられた「宗教的被害」「宗教的虐待」のサバイバー。それが「宗教2世」だ。

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 宗教2世たちのなかでは、宗教団体が起こしてきた加害活動の記憶が地層のように積みかさなっている。筆者の場合だと、小学生の頃はエホバの証人2世として「ムチ」と呼ばれる日常的な暴力にさらされていた。高校生の頃、オウム真理教の組織犯罪があかるみに出て日本を震撼させたが、筆者には自分に関係のある問題だと思われた。40代のときには、山上徹也という私の2学年下の男が安倍晋三銃撃事件を起こし、報道の嵐によって、それまでネットジャーゴン(インターネット上の俗語のこと)のような存在だった「宗教2世」という単語が、一躍時代を象徴する言葉になった。

 筆者は銃撃事件の直後から「宗教2世の会」の主宰者として注目され、しきりにマスメディアで発言を重ねたが、宗教2世たちが苦しんできた問題はなかなか世間に理解されないと感じた。「宗教2世」という言葉がなかった時代に報道されていた「オウムの子ら」のことが気にかかった。

 さいわいにして、筆者は編著書のひとつで、オウム真理教2世1名へのインタビューを果たせた。オウムは際立って大規模な教団ではなかったために、2世信者の数は限られている。全国で保護された数でも112人。もちろん、そのひとりひとりにかけがえのない人生と凄絶な体験があったわけだが、何千人、何万人という数ではないために、探すのは容易ではない。しかし本書の場合、NHK甲府放送局に、当時の膨大な記録が残されていたことが追跡調査を可能にした。

 先ほども述べたとおり、私たち宗教2世にとっては、宗教絡みの社会問題は地層のように堆積し、精神形成に寄与してきた。言葉を尽くさなくてもオウムや統一教会の問題を我が事として理解できる。しかし世間のほとんどの人にとってはそうではない。オウムと統一教会の事件はほとんどバラバラに見えてしまうだろう。

 本書は、そのようなミッシングリンクをつなぐ書物にほかならない。「宗教的被害」あるいは「宗教的虐待」という、いまなお日本では充分に社会問題として論じられていない大きなテーマに見通しを得る上で、本書には大きな意義がある。

「クローズアップ現代」/1993年よりNHK総合で放送している報道番組(現在は月~水曜の夜7時半放送)。幅広いテーマについて、ディレクターや記者が徹底取材する。本書は、2025年3月18日に同タイトルで放送された内容を元に作られている。

よこみちまこと/1979年生まれ、大阪府出身。京都府立大学文学部准教授。著書多数。編著書に『みんなの宗教2世問題』など。

オウム真理教の子どもたち 知られざる30年

NHK「クローズアップ現代」取材班

集英社インターナショナル

2026年3月5日 発売