衆目を集め続けるフジテレビ及びフジ・メディア・ホールディングスの動向。中居正広氏に絡むコンプライアンス問題に始まり、フェイズは村上世彰氏vsフジテレビに移って、まだ終局は見えない。そんな最中に『狙われたフジテレビ ニッポン放送元社長が明かすライブドア買収攻防21年目の真相』が出版された。著者は人気ラジオDJにしてニッポン放送社長だった亀渕昭信さん。現在のフジ問題の原点と言われる、堀江貴文氏率いるライブドアによる買収騒動。本書は、この騒動の発端と結末までを、毎日記録していた日記を交え克明に活写する。
「以前の同僚や仲間が僕に当時の記録を残すべきだと、ずっと言ってくれてたんです。グズグズしてるうちに関係者も鬼籍に入りはじめ、僕も危なくなってきて(笑)。20年の区切りでもあるし、怯懦をふりきって記録を残すことに決めたのが昨年のことです」
かつてフジサンケイグループの旗艦企業はニッポン放送であり、フジテレビが子会社だった。つまり資本の小さなラジオ局の傘下にテレビキー局がいた構図だ。定説では、この“資本のねじれ”に村上氏や堀江氏が目をつけたとされる。小さな親会社を買収すればテレビ局が手に入るという寸法だ。だが、亀渕さんはその説に「ちょっと違う」と言う。
「そもそもはフジサンケイグループトップだった鹿内宏明さんを、日枝久さんら当時の首脳部が追放した“1992年のクーデター”が端緒。お家騒動自体は同族企業にありがちですが、その後、宏明さんの反撃を恐れてフジ、ニッポン放送共に上場してしまったのが決定的でした。グループ指導部がインサイドの経営統治に傾注しすぎて、僕も含めて上場=パブリックという視点を失っていたんだと思います。上場とは世間に広く開かれることであって、非上場のようにコソコソ内部調整が利きませんから、隙が生まれた」
上場後の2005年1月、まず“ねじれ解消”という目的でフジテレビによるニッポン放送のTOBを決定。2月、現在ではTOB規制の対象になっている時間外取引によって、堀江氏はニッポン放送株30%という大量買付を行い、ニッポン放送・フジテレビを危機に陥らせた。この攻防は2カ月間に及んだ。
「攻防中は防衛策とマスコミに追いまくられて、血圧は上がりっぱなし。対する日枝さんはおっかない、村上さんはグイグイ迫る、メディア戦略に長けた堀江さんからはオールドメディア、ジジイ扱いされて(笑)。ラジオ局というメディアの存亡の危機を真剣に問うメディアはありませんでした。それは当時の小泉政権も一緒。社長としては日々苦しかった。ただ、無我夢中で潜り抜けてみると、言葉に尽せない充実も感じた。メディア買収なんてなかなか体験できませんから、学びは大きかったですね。まずM&Aに対抗するには“冷静になること”。M&A成功率は約3割でギャンブル。下手に動くのではなくて我慢して相手の失敗を待つのが吉。対抗策の新株予約権などにおいて、大事なのは株主さんへの“大義を掲げること”。上場企業である以上はパブリックな視点が大事。そして、最後は決して諦めないこと。これに尽きます」
亀渕さんの言う通り、本書の日記とコメンタリーには、歴史的価値とともにコーポレートガバナンスの要点がたくさん詰まっている。
「名著『失敗の本質』には及びませんが、企業を守ることの意味を僕らの失敗や仲間の知恵から読み取って頂けたら、少しは世のためになったとホッと出来ます」
かめぶちあきのぶ/1942年、北海道生まれ。早稲田大学卒。64年、ニッポン放送入社。1年間の米国留学のあと、番組制作、「オールナイトニッポン」パーソナリティ、編成デスクなどを経て、99年から2005年までニッポン放送代表取締役社長を務める。著書に『秘伝オールナイトニッポン』など。

