「119番したのになかなか救急車が来ない」

 車にはねられ、血を流している人が冷たくなっていく。大雪が降っているわけでもなく、渋滞が発生する時間でもない。一体何が原因なのか。刻一刻と命の灯が消えかけるのを見守ることしかできない中、ようやく遠くにサイレンの音を聞く――。

 まるで悲劇の一幕のような「救急車が間に合わない」状況は決して創作の中の絵空事ではない。救急医療の現状を鑑みれば、今まさに発生していてもおかしくない「現実」なのだ。

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病院までのタクシー代わりに利用するケースが多い現状

 日本では救急車を呼ぶのは無料なのが常識だ。しかし、これは世界を見渡すと極めて珍しく、日本以外では香港とイタリアのローマ、イギリスのロンドン程度である。全国規模で、かつ誰でもという条件を課すと日本だけになってしまうようだ。

 誰でも、いつでも、無料で利用できる公共サービスとして、数多くの命を救ってきた世界に誇るべきシステムと言える。一方で、年々出動件数が増加し、統計上は5秒に1回(統計を取った年によってはそれ以上)出動しているシステム崩壊の瀬戸際にあることも事実である。どうして、ここまで出動件数が多いのだろうか。5秒に1人が緊急搬送されるなんて、いつから日本は修羅の国になったのだろうか。

 
 

 さて、ここで令和7年の消防庁の統計から救急搬送した人員の傷病程度を確認してみよう。統計によれば、軽症がなんと半数近く(46%)を占めている。緊急度の高い死亡・重症に限ると10%を下回っている。

 気軽に救急車を呼べてしまうがゆえに、病院までのタクシー代わりに利用するケースが多いのが現状だ。この救急車の不適切な利用が、救急医療の現場を圧迫している大きな要因であることは明白だろう。

119番をかける前に一度思い返したいセリフ

 こういった日本の救急現場を描いたのがマンガ「イチイチキュ!!!」である。救急車をタクシーのように利用する人、救急隊員を介護士代わりに呼ぶ人、それらに対し、現場はどう対処するのかを克明に描いている。もちろん、事案によって事情も対応も異なり十把一からげに不適切利用と断ずることはできない。しかし、第1話で主人公・伊東が口にしたセリフは119番をかける前に一度思い返したい。

「救急車はタクシーではありません。ご自分で病院に行けない人、今にも命が尽きそうな人のためにあります。あなたを運ぶことで救急車に乗れなくなる人がいます。私たちは社会資源です。その資源は限られています」

 

 救急車の出動コストは1回あたり45,000円である。そのコストが5秒に1回発生している。これを高いと感じるか安いと感じるかはその人次第だろう。しかし、金額の多寡ではなく、その気軽な「119」の裏で、誰かの命の灯が消えかけている可能性は誰もが忘れてはならない。

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