流れを変えた小久保の一打
18日の初戦。ここまでチームを支えてきた投手陣が打たれた。先発の杉内が6回4失点。打線が奮起して7対4とリードしたが、9回に守護神馬原がまさかの乱調で追いつかれた。重苦しいムードが漂ったが延長11回、決着をつけたのはキャプテン小久保のバットだった。シコースキーの真っ直ぐを完ぺきにとらえ、左翼スタンドへサヨナラ2ラン(結果は9対7)を叩き込んだのだ。
この一発で潮目が変わった。
19日の2戦目も、このシーズンは湿りがちだった打線が大いに躍動した。初回に先制されるも多村仁志がすぐさま3ランを放って逆転に成功。松中信彦も本塁打を放った。このシーズン初の2試合連発で11対4と大勝した。
20日の3戦目は5対4の9回表がハイライト。2アウト一、三塁で一打同点、長打ならば逆転されるピンチだ。マウンドの馬原は、西武の主砲中島裕之と激闘を繰り広げた。初球は153キロを計測するも外れた。2、3球目はフォークで空振りを奪い追い込んだ。カウント2―2からは140キロ台のフォークを連投。暴投も許されない場面だったが、捕手の山崎勝己を信じて右腕を振り抜いた。約10分に及ぶ対決の末の12球目、最後もフォークだった。空振り三振。守護神はマウンドで会心のガッツポーズを見せたのだった。
その後、ついに逆転首位に浮上したホークスは25日、札幌ドーム。先発した杉内がダルビッシュとの投げ合いの中、1対0で完封勝利を収めた。前回登板の悔しさを胸にマウンドに立ち続けた左腕はヒーローインタビューで号泣。これでマジックを「1」とし、翌26日に7年ぶりのリーグ優勝を果たしたのだった。
1位 ソフトバンク 76勝63敗5分 勝率.547
2位 西武 78勝65敗1分 勝率.545 0ゲーム差
と、色々振り返ってきたが、奇跡を起こした最大のポイントは小久保のサヨナラ弾だったと思っている。
あの年の小久保は首や左肩の故障があり苦しんでいた。通算400本塁打の記録が迫りながら、8月21日の14号(通算398本目)を最後に一発が出なかった。ホークスの心臓のような存在でもある小久保の苦しみは、チームやファンの苦しみでもあった。
奇跡を起こすには、全身に血液が一気に巡るような何か「劇的」な出来事が絶対必須だ。その中、小久保はサヨナラホームランを打った。選手、チーム、ファンのすべてが一つになれるものが、2010年は小久保のホームランだったのだ。
奇跡を再現するためのカギを握る男
2018年、今のホークスはキャプテンを欠いて戦っている。
内川聖一は8月16日、疲労性の体調不良との理由で出場選手登録を抹消された。2000本イヤーの今年は、開幕から重圧と戦いながらも5月9日に金字塔を打ち立てた。しかし、同17日に右膝痛と左足打撲で一旦戦列を離れ、6月16日に1軍復帰したが、なかなか本来の打撃が戻らずにいた。今季は71試合に出場して打率.242、8本塁打、30打点の成績だ。
内川は9月15日、2軍で実戦に復帰した。そこからの3試合をタマスタ筑後に取材に行ったのだが、とにかく元気がない。3試合ノーヒットだったのはともかく、「試合に出ただけ」「何も聞くことがないでしょ」と伏し目がちで話す姿は正直寂しかった。
もともと繊細な心の持ち主だ。リーグ優勝を最後の最後まで争った2014年には口唇ヘルペスを患い、「週7で行ける」という大好物の焼肉も食べられず「胃が重たい」と悩んだこともあった。
でも、彼は、あの内川聖一である。
その2014年は日本シリーズでMVPを獲得した。記憶に新しいところでは昨年のポストシーズンだ。CSファイナルで4試合連続本塁打を放ち、日本シリーズでは第6戦の1点ビハインドの土壇場9回裏に同点アーチを左翼へ架けた。
「ダメな自分や結果がダメだったことを認めて、自分で受け入れられることで、自分でどうにかするしかないと思うから強くなれる。ダメだったら自分で責任を取ればいいんだから。だからこそ逆境の時こそ、切羽詰った状況の時こそ開き直れるんですよ」
大舞台に強い秘訣とは――今年の開幕前にインタビューをした際、内川はこのように答えてくれた。
27~29日にはまたメットライフドームに乗り込み、本当の「天王山」に臨む。内川よ、早く1軍に戻ってきて笑顔を取り戻しておくれ。奇跡を再現するためのカギは、アナタが握っているのだから。
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