『多類婚姻譚』(凪良ゆう 著)

 世代や立場によってまったく異なる感想が出てきそうな作品、それが結婚をテーマにした凪良ゆうの『多類婚姻譚』だ。多様性の時代の結婚観に多方面から切り込む5編が収録される。

 1話目の「Thank you for your understanding」は、大手食品会社に勤務し、38歳で課長に昇進した華が主人公。一緒に暮らす樹(いつき)は人間関係が原因で退職し、現在休職中。2人に結婚する予定はないが、華に恋人がいると知った母親の強い要望で、華は正月に樹を連れて帰省することに。

 第2話「Beautiful Dreamer」の主人公は27歳の花織。新卒で入社した会社でセクハラといじめに遭って退職、現在は派遣社員として働いている。恋人は同じ社の正社員、恵斗。花織は結婚を望んでいるが、彼にまだその気はなさそうだ。身だしなみを整え、健気に振舞う花織に対し、恵斗の友人らには痛々しそうな目を向けられる。花織もそれは自覚している。しかし、給料は低く、奨学金の返済を抱え、スキルアップに使える金もなく、どうすればよいのか。後半の彼女のモノローグはあまりにも痛切。

ADVERTISEMENT

 第3話「小鳥たち」は離婚して実家の書店を継いだ40代の一葉の話。地元で中学時代の同級生、越智と再会したところ、彼は適応障害と診断されて休職中で、妻とも別居中だという。2人は少しずつ、互いの事情を語り合っていく。

 第4話「Position Talk」は東京で働く律が主人公。恋人の朱里(あかり)は会社の同僚だ。もとは同じ部署にいたが、2人の交際が社に知られると朱里が異動となった。彼女はそれが納得いかない様子だ。仕事を続けたい彼女は、今後の結婚と出産について不安がる。律が理解を示すつもりで「朱里に合わせたい」と言っても、何か起きた時に「きみが選んだことだ」「ぼくは強制してない」と、朱里に責任を押し付けるのではないか、と言う。

 第5話の「Cʼest la vie」は47歳の料理人、祥子(しょうこ)が主人公。フランス料理店のオーナーシェフで既婚者の伸一郎と長年恋人関係にあり、彼から2号店を任されている。周囲は、祥子は搾取されていると言う。

 以上5編、それぞれ独立した内容だが、どの話にも大手食品会社の社員が登場し、前の話の主人公のその後が分かるなど、楽しい仕掛けもある。

 現代における恋愛観や結婚観のグラデーションが、どれだけ広がっているのかよく分かる1冊。男女格差や経済格差、生育環境の違いによって生まれる格差など、結婚をめぐる現実的で切実な問題をぎっしり詰め込んでいる。特に第2話と第4話は、当事者の危機感が肌感覚で伝わるほど言葉にパンチがある。現代社会に対する批判性もたっぷり。ここまで当事者の痛みを引き出せる著者の切り込み力に圧倒される。さすがだ。

なぎらゆう/京都市在住。2007年に本格的にデビュー。BLジャンルでの代表作に「美しい彼」シリーズなど多数。20年『流浪の月』で本屋大賞受賞。『汝、星のごとく』で第168回直木賞候補、23年に2度目の本屋大賞受賞。

たきいあさよ/1970年生まれ。ライター。著書に『偏愛読書トライアングル』『ほんのよもやま話 作家対談集』など。

多類婚姻譚

凪良 ゆう

講談社

2026年5月27日 発売