4月に行われた板門店の南北会談や6月のシンガポールでの米朝首脳会談が終わって3か月余りが過ぎた。しかし、北朝鮮の非核化問題解決に向けた交渉は一歩も進んでいない。
北朝鮮が国際的にクローズアップされる中、意外な存在感を放っていたのは、金正恩労働党委員長の実妹・金与正(30歳)だった。文在寅大統領と会談する際、金与正は常に金正恩の脇を守っていた。多くの人は、そのことを記憶しているだろう。首脳会談が行われる場合、首脳の左右には、外相などが陪席するのが一般的だ。しかし、金正恩の場合は、それが「妹」だった。
常に金正恩に随行
金与正とはどのような女性なのか。
故・金正日総書記の六女にあたり、実母は金正日の3番目の妻である高容姫。実兄に金正哲、金正恩がおり、異母兄には2017年2月にマレーシアで暗殺された故・金正男(母は成蕙琳)がいる。金与正は「朝鮮労働党宣伝扇動部第一副部長」という肩書きを持っているが、常に金正恩に随行していることから、平壌の中枢部で中核的な役割を担っている人物だと見ていいだろう。
学生時代には、金正哲、金正恩と同様にスイス・ベルンに留学していた。帰国後、彼女に政治や朝鮮労働党の業務などを教えたのは、異母姉の金雪松(45歳、金正日と正妻の金英淑との間に生まれた長女)だと言われている。ところが、金正日の死後、金与正の“政治の師”ともいえる金雪松は「組織指導部副部長」という肩書きをはく奪され、金正恩によって「白頭山血統(金一族の血筋)ではない」という理由から失脚させられてしまったという説もある。現在は、軟禁状態だと言われている。
“高慢”な金与正が、唯一頭を下げた人物
今年2月、金与正は平昌五輪の開会式に出席するために韓国を訪問したが、その時の言動には彼女がロイヤルファミリーとして教育を受けてきたが故の“高慢さ”が垣間見えた。金与正と一緒に晩餐などをした首相など韓国側の高官のほとんどが“格上”だったにもかかわらず、彼女は、常に腰を真っすぐに伸ばし、遜った姿勢を見せなかったからだ。また、言葉の数も少なく、あまりうなずいたりもせずにほとんど相手の話を聞くだけだった。唯一、金与正が頭を下げたのは文在寅大統領の前だけであった。
実は、そんな金与正に関して、筆者は北朝鮮の政権中枢に近い複数の人物の証言に基づくある極秘資料を入手した。そこには、金一族に関する新たな事実が記されていた。
中でも驚かされたのは、「金与正が政略結婚していた」ということである。その結婚相手の素性も驚くべきものだった。知られざる金一族の姿が記された極秘資料の詳細は、『文藝春秋』10月号掲載の「極秘ファイル入手 妹・金与正が政略結婚した大物」に書いた。是非ご一読いただきたい。