先日、慰安婦問題をめぐる韓国の異端(?)の学者、朴裕河教授(韓国・世宗大)にインタビューした。彼女は日本文学の研究者だが、この数年、例の慰安婦問題で韓国の世論を刺激する著作を発表し内外で注目されている。とくに問題になった『帝国の慰安婦』は韓国内で事実上、発禁になったうえ、元慰安婦たちの名誉を傷つけたとして刑事告訴され、1審無罪2審有罪の後、上告審が続いている。
日本人は「韓国ではいまだ日本がらみの歴史については言論、出版の自由はないのか?」とあらためて反韓・嫌韓感情をかき立てられているが、彼女は今回の慰安婦問題のみならず、日本研究者の一人として「韓国では日本に関し事実ではないことが”常識”として定着している」ことに、これまで終始、深い憂慮と日本専門家としての自責の念を抱き続けている。
しかしその“常識”の一つである「戦前、韓国の少女二十数万人が性奴隷として日本軍によって強制連行された」という韓国社会の不動の思い込み(タブー)に対し、異を公言することはきわめて勇気がいる。政治家や知識人なら社会的抹殺の対象になる。事実、彼女は法廷に立たされてしまった。そこのところを「なぜなんだ?」と聞いてみたのが今回のインタビューだが、それでも彼女によると1審の無罪判決や韓国内での支援の動きなど「韓国にも変化の芽は出ている」という。
タブーに挑戦する果敢さ
彼女は慶応大と早稲田大で学んでおり日本語は完璧だ。その歴史観や日本での支援人脈などはいわゆる進歩派というかリベラル・左派系であり、著書でも「日本帝国主義批判」はかなり手厳しい。それに「国家より市民」という思いがあったりで、保守派の僕とはイデオロギー的にズレるところはあるのだが、何といっても「韓国社会のタブー(反日常識)に挑戦する果敢さ」に惚れ込んで長く付き合ってきた。
今回、『文藝春秋』という保守系メディアへの登場には若干の躊躇はあったようだが、そこは日本社会への影響力を評価してもらって自由に語ってもらった。韓国社会で執拗に続く反日現象の根底にある人びとの“反日情緒”を変化させるには、数多くの事実に基づかない“常識”をひとつずつ打破していくしかない。その意味で今後とも韓国人の彼女に韓国でがんばってもらいたいと思う。『文藝春秋』10月号に掲載されるインタビューにはその激励の意味を込めたつもりだ。