「大河ドラマ決まったから」
九州男児としての教えはいいんですが、これからオーディションなのに、僕の頬っぺたには真っ赤なみみず腫れが……(笑)。おふくろは「ごめんね」と謝ったみたいなんですけど、僕は覚えてない。それから会場でオーディションを受けたはずなんですが、どんな内容だったかも全然記憶にないんですよ。
オーディションが終わって、何十人という男の子たちと一緒に階段に出てきた時、事務所の方に名刺を渡されました。審査員の1人だったのかなんなのか、よく分かりませんでしたが、少し話をして、その場を後にしました。
2週間ほど経った頃、家に電話がかかってきて、事務所に行くことになりました。
事務所のビルの下で待ち合わせだったのですが、入り口に出待ちの女の子たちがたむろしていた。ちょっと入りづらいですよね。で、いったん帰りかけ、行くのをやめようかな、と思っちゃったのですが、ふとおふくろの顔が浮かびました。途中でやめて戻るのは、九州男児ではない……。意を決して、駅の方をグルっと回ってビルに戻ったんです。
ビルの5階に事務所の方がいて、「このままNHKに行くよ」と連れていかれました。オーディションだったんでしょうね。それが終わり、NHKのソファで1人ぽつんと待っていたら、「おめでとう。大河ドラマ決まったから」と言われました。
翌年(1972年)の1月2日から始まる大河ドラマ『新・平家物語』に出演が決まったというんです。平清盛の弟、経盛の幼少時代役で。去年亡くなった仲代達矢さんが平清盛、新珠三千代さんが僕の母上、(17代目)中村勘三郎さんが清盛の養父と、今から考えるととてつもないメンバー。収録の2週間前から猛特訓が始まりました。そりゃそうですよね。たとえ「母上……」ってセリフだけにしろ、ずぶの素人がそこに仲間入りしなければいけないわけですから。
※この続きでは、「仕事の引き際」について郷ひろみさんが語っています。約6200字の全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2026年7月号に掲載されています(郷ひろみ「母の叱咤が僕を作った」)。
■郷ひろみ(ごう・ひろみ) 1955年生まれ。紅白歌合戦に25年連続38回出場し、昨年末で勇退した。5月から、日本全国43公演のツアー中
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