自分らしく生きるためのお金のつくり方・残し方
最期まで自分らしく生きるためにはお金が必要となる。人生後半戦に向けて、どのような準備をしておくべきか。がんをきっかけに自身で終活を実践し、多くの人の相談にも乗っているファイナンシャル・プランナーの黒田尚子さんに、前向きなライフプランニングの実践術を聞いた。
──老後を見据えた資産運用はどこから着手すべきでしょうか。
黒田 尚子さん
くろだ・なおこ 1969年生まれ。CFP1級ファイナンシャルプランニング技能士・CNJ認定の乳がん体験者コーディネーター。1998年にFPとして独立後、個人に対するコンサルティング業務のかたわら、講演・講座の講師、執筆など幅広く活躍する。
黒田 資産運用に関心がある方は多いのですが、「具体的にどの程度お金を増やしたいのか」と聞いてみると、はっきり答えられない人が多いんです。「お金は増やしたいけれどリスクは怖いから、運用利回りは何となく3%くらいかな」といった商品選びをしているんですね。それでは資産運用をしても目的額まで増やせないかもしれないし、老後資金に対する不安はぬぐえないでしょう。
この課題の本質は「自分が最低限どれくらいで生活できるか」が見えていないことにあります。そこで私は老後資金を考えるうえで、手持ちの資産を目的別に「残すお金」「備えるお金」「使うお金」に振り分ける「老後資金三分法」をおすすめしています。
ポイントは分ける順番です。まずは「残す」お金を手持ち資産から差し引きます。このお金は、想定より長生きをしたり、思った以上にインフレが進んだ際の保険としても使えます。次に医療や介護などが必要になった時を見込んで「備える」お金を用意します。そして残ったぶんが、これから「使う」お金というわけです。
「使う」お金を平均余命で割ると、年間予算が明確になります。そうすれば「あと〇〇万円足りないから年〇%で運用する」というゴールを設定し、適切な金融商品を考えることができます。簡単な計算ですから、まずはぜひやってみてほしいですね。
──「残す」お金の引き継ぎ方としてどんな方法がありますか。
黒田 自分の思いを間違いなく実現したいのであれば、遺言を作成しましょう。公正証書遺言にするのが確実です。自筆証書遺言についても、法務局に保管する制度ができて使いやすくなっています。
よく『うちには相続税がかからないから遺言なんていらない』とおっしゃる方がいますが、むしろ逆です。特に自宅くらいしか財産がないなら、残された家族が揉めないために遺言を書いておくことをおすすめします。
また相続では、父親が亡くなったときではなく、その後母親が亡くなったときに揉めることが多いことにも注意しておきましょう。父親が亡くなった最初の相続(一次相続)のときは、財産の大半を配偶者が相続するので、子どもたちも『お母さんが持っているなら』と不平不満が出にくいんですね。その後、母親も亡くなった後の二次相続で兄弟姉妹だけで話し合うと大変です。だからこそ母親に遺言を書いておいてもらうか、生前にちゃんと財産を振り分けておくことが安心につながります。
──相続を含めた親の終活について、親子でスムーズに話し合うコツはありますか。
黒田 親に対して終活やお金の話を切り出す際は、「3つのT」を意識してみてください。一つは「タイミング」。親が健康なうちに話し合いをすることはもちろん大切なのですが、ちょっとした病気が治ったときや退院時など、親自身が「この先に何かあると困るな」と実感した瞬間なら、話を進めやすくなります。もう一つは話し合いの「単位」。お盆や正月に親族総出で親を囲んで問い詰めるのは逆効果です。できれば親と子が一対一で、ゆっくり向き合う時間を持てるといいですね。最後に、「親の性格(タイプ)」を見極めること。親の価値観や考え方に合わせてアプローチしましょう。
──家族への相続以外の選択肢はありますか。
黒田 死後に残った財産をNPOや公益法人に寄付する遺贈寄付という方法があります。自分が築いた財産を未来の社会に役立ててほしいという思いを次世代に託す手段です。
ただし寄付に込めた思いを確実に実現するためには、法的な手順を踏む必要があります。遺言書の不備で無効になってしまうこともありますし、現預金以外の寄付は受け入れられないと寄付先から断られるケースもあります。元気なうちに寄付先や専門家に相談しておくと安心です。
──黒田さんは乳がんの告知を受けたことを契機に終活を始められたそうですね。終活を通じてどんな心境の変化がありましたか。
黒田 私は40歳で医師から「乳がんで5年生存率50%」と告げられたとき、真っ先に子どもの年齢を数えました。当時の子どもは5歳で、5年後でも10歳。幼い子を残してこの世を去ることになっても夫が困らないように、すぐにエンディングノートを買いに書店へ行きました。
そうしてまっさらなノートを前にしたとき「私の人生って、いい人生だったのかな。どんなことを大切にしたかったのかな」という思いが浮かび、限りある時間で本当に大切にしたいものを考えるようになりました。エンディングノートは財産目録としても使えますが、それ以上に、人生を振り返るうえで極めて有効なツールだったと感じます。
ノートを書き終わると安心感とともに、「残された人生を、自分らしく“生ききりたい”」という意欲が湧きあがりました。がんの治療法一つをとっても、提示されたものをただ受け入れるのではなく、自身の意思で納得して選び取りたいと主体的に変わりましたね。
──終活が、生き方を変える契機になったのですね。
黒田 そうですね。終活は死ぬ準備として語られがちですが、私にとっては「幸せな人生とは何か」に気付き、悔いなく生きるためのスタートとなりました。よく「いつから終活を始めるといいでしょうか」と聞かれますが、いつから始めてもいいんです。40歳でも早すぎることはありません。ただしお金に関する手続きなど元気でないとできないこともありますから、必要性を感じている方は早めに動き出してもよいと思います。最後まで自分らしく輝くための前向きなライフプランニングだと思って、ぜひ元気なうちから始めてみてください。