「あいつはなんで踏み間違いを認めないの?」
「あのさ、飯塚が逮捕されなかったのは理解してるんだけど、あいつはなんで踏み間違いを認めないの? いつ書類送検されるの? 警視庁に聞いても肝心なところは教えてくれないし」
松永が「お父さん、記者さんにも言えることと言えないことがあるからさ」と取りなした。
これまで、警視庁交通捜査課や犯罪被害者支援室の警察官が何度も松永宅を訪れ、遺族に対して捜査に関する説明を行い、悩み事の相談にも乗っていた。
彼らの中で、松永が特に信頼を寄せたのが、交通捜査課でナンバー3の立場にある管理官の高橋哲だった。
告別式翌日の四月二五日、精神的に崩壊寸前だった松永は、高橋らに「加害者を見つけたら殴り殺してしまうかもしれない」と泣き崩れた。
四十九日法要の前日である六月五日は親族全員が精神的に限界の状態で、松永や両親、真菜さんの父・上原義教らは高橋に怒りを次々とぶつけた。
「なぜ逮捕しないんですか」「誰かが飯塚に悪知恵を入れているのでは」「ひき逃げではないのか」「危険運転ではないのか」「免許制度が問題だ」
高橋は守秘義務や核心的証拠に関わる部分については軽々に話すことができなかったが、大粒の涙を流しながら必死に説明を続けた。
警視庁は危険運転致死傷罪について、自動車運転処罰法第二条二号の「制御困難な高速度」、同法第二条七号の「赤信号を殊更無視」の適用を検討した。しかし、事故の原因を飯塚の過失が原因とみて、立件を見送っていた。
「私の心は、この紙と同じです」
そのとき、松永は高橋の前で白い紙をグシャッと丸め、再度広げた。
「私の心は、この紙と同じです。何度伸ばしても、皺が残って元の状態には戻りません」
高橋は大粒の涙を流した。
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妻と娘をなくした喪失感に苦しむ松永さんを救ったのは「義父の言葉」だったーー。
