花火は平和でなければ
それでも、個人のラーメン屋には平均的な味のチェーン店とは違う個性的な魅力があるように、「秘伝の一発」を作り続けることにこそ、活路があると思います。
日本の花火大会は基本的にローカルに根づいた地場のもの。地元企業が作った花火を、地元の経済が支える大会で打ち上げることが中心にあります。そのうえで、依頼があれば別の地域の花火師も集って打ち上げる。そうやってよりいい花火を見せようと、みんなが競い合い切磋琢磨しているのです。
危険物である火薬を扱う以上、世界中に無制限に輸出できるものではありませんし、そもそも輸出できるほどの生産量でもありません。ただ、それは逆にこの国でしか打ち上げられないとも言えます。現地に行き、五感で体感してもらえれば、必ずその良さは伝わる。「心の洗濯」とも言える、花火を見つめる間の没入体験は、観光業にも有効なものだと考えています。
思い起こせばこの半世紀、本当に色んな大波、小波がありました。家族や友人に苦労や心配をかけたこともあれば、コロナでまったく花火が上げられなくなり、蓄えを崩しながら歯を食いしばって踏ん張ったこともあった。夏の風物詩なのに、あまりに気温が上がりすぎて秋に大会を開くことも増えています。どんな未来が待っているかなんて、さっぱりわかりません。
ただ、一つだけ言えることは、花火は平和で平穏な時代でなければ上がらないということ。戦争があれば火薬は取りあげられてしまうし、経済が豊かでなければ打ち上げることもできない。嗜好品の花火は、その国の文化のバロメーターなんです。
一瞬の間に鮮やかに咲いてぱっと消える花火の、光、音、煙、振動、余韻……。そうした全てを身体全体でうけとめる。江戸時代に日本で初めて花火を見たと言われる徳川家康以来、この国ではそんな花火文化がずっと根付いてきました。これからも、日本がそんな花火を楽しめる国であってほしいと願っています。
※約7200字の全文では、「野村ブルー」の開発秘話が明かされています。全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア『文藝春秋PLUS』と『文藝春秋』2026年9月号に掲載されています(野村陽一「この国でしか上げられない花火がある」)。
※野村陽一さんが登場したグラビア「日本の顔」も合わせてご覧ください。
■野村陽一(のむら・よういち) 1950年生まれ。明治大学卒業後花火師になり、2006年に複雑な五重芯花火を世界初成功させた。2013年「現代の名工」選出、2014年「黄綬褒章」受章
出典元
【文藝春秋 目次】芥川賞発表 受賞作全文掲載 小砂川チト「ゾンビ回収婦」/「高市総理よ、日本を壊すな」細川護熙/がん15部位 早期発見ガイド
2026年9月号
2026年8月10日 発売
1480円(税込)


