戦国時代に城の石垣造りで大活躍した職人集団「穴太衆」。その末裔である粟田純徳さんは自身が経営する建設会社で、穴太衆の戦国時代から続く秘伝のワザを受け継いでいるという。
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強度の秘密は「隙間」
10メートル以上の高石垣を自然石のみで積む技術は、世界的にも例がないものです。マチュピチュや万里の長城は、石を切断加工しており、自然石ではありません。
穴太衆積の強度は極めて優れています。2005年に開通した新名神高速道路の護岸壁などの工事を受注した時、穴太衆積が現代の建築基準に適合するか問題になりました。そこで、京都大学大学院の協力のもと、加圧実験を行うと、200トンで割れたコンクリートブロックに対し、穴太衆積はジャンボジェット機の重量に相当する250トンまで耐えました。
強度の秘密は「隙間」にあります。コンクリの壁は隙間が無い分、地震などの衝撃が全体に伝わりますが、穴太衆積は石の間に隙間があることで衝撃を吸収するのです。多少石が動いても、いや、動くからこそ、全体が倒壊することはありません。高層ビルが地震の時にわざと揺れることで衝撃を吸収し、耐震強度を高めているように、石垣も多少揺れる方が衝撃に強いのです。
穴太衆積は、戦国初期から用いられた工法で、戦国後期には、石の接合部分を削って積む「打込接(うちこみはぎ)」や、石を直線的に加工して積む「切込接(きりこみはぎ)」なども生まれました。ただ、この二つは美しさを重視するために目地を詰め、石同士の隙間がありませんから、穴太衆積の方が強度は断然高いのです。
耐震強度だけでなく、水はけにも優れています。実は、石垣は表面から掛かる力よりも、内側から押される力に弱い。天敵は大雨が石垣内部に詰めた石の中を通る際の水圧と、水を含んで膨れ上がった土の圧力。土の圧力が高まると、石垣の真ん中あたりが、妊婦さんのお腹のように膨らんでくる。この状態を「孕む」と表現しますが、石垣の崩壊が近いサインです。
内部で排水の役割を担うのが、拳ほどの大きさの「栗石(ぐりいし)」を詰めた「裏栗」と呼ばれる層です。裏栗を丁寧に綺麗に積むことも穴太衆積の特徴です。その作業が水はけを良くし、強度を高めています。他にも野面積を手掛ける業者はありますが、恐らく裏栗を丁寧にやっていないのでしょう。別の業者が修復した石垣が水害によって2、3年で崩れてしまい、自治体から「修復してほしい」と依頼されることも。“裏の仕事”の良し悪しによって、石垣の寿命は100年単位で変わるのです。
近年は線状降水帯の発生などにより、戦国時代では想定していなかった量の豪雨が降るようになりました。従来の裏栗は1メートルほどの幅でしたが、今後はこれを広げて排水能力をさらに高めていく必要があります。伝統を継承しつつ、現代の課題に対応できるよう、日夜、試行錯誤を続けています。