中央競馬の1年を締めくくるグランプリレースである有馬記念には、その年に活躍した名馬たちが集結する。

 名物実況アナとして競馬ファンに親しまれているフジテレビの青嶋達也さんが、有馬記念にかける熱い思い、実況の名フレーズ誕生の裏側を明かした。

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有馬記念の“あの感じ”を伝えたい

 中央競馬師走恒例の有馬記念はその年を彩った名馬が集結するグランプリレース。これまでに9回、実況を担当してきた。

 独特のオールスター感。澄んでひんやりと乾いた空気の中、儚さやさみしさすらも帯びた華やかさ、神々しさ。季節特有の高揚感も手伝ってか、それを前のめりになって待ち構え歓声をあげるぎっしりのファン。

オルフェーヴルと池添謙一騎手 ©時事通信社

 そんな1周目のホームストレッチの光景が実は好きなのだが、レース実況で最も大事なのはゴールの瞬間、および伏線となる勝負どころの描写。有馬記念の舞台は、中山競馬場の芝2500メートル。スタート後に一度スタンド前を通り、コースを約1周半してゴールする。つまり、1周目ではなく2周目のスタンド前が肝心だ。でも、1周目の「あの感じ」も、毎回どうにかして伝えたいと思ってきた。

 1988年にフジテレビに入社して以来、有馬記念の実況は憧れの舞台の一つだった。新人時代に、イナリワンとスーパークリークの雨中のハナ差決着や、オグリキャップのラストランを、実況する先輩アナの背後で目撃。トウカイテイオーが「奇跡の復活」を遂げた頃は、9年連続でスタート地点リポートを担当した。

 そして、アナウンサー25年目にして、初実況が巡ってきた。2012年、勝ち馬はゴールドシップ。早めのまくりから、皐月賞制覇の時のイン突きとは真逆の大外から。鮮やかだった。

 翌年はオルフェーヴル。東日本大震災の年に誕生した史上7頭目の三冠馬が8馬身差のラストラン。東京開催となった皐月賞の実況冒頭に震災時を思い出して涙がこみあげ危なかったことや、惜敗の凱旋門賞(2度目の2着)を現場実況したことなどが、一瞬で走馬灯状態に。で、「目に焼き付けよう」というフレーズが勝手に飛び出した。

2017年の有馬記念がラストランとなったキタサンブラック。鞍上は武豊騎手 ©時事通信社

 3回目は17年、キタサンブラックのラストラン。この年は、本番3日前にBSフジで放送する「公開枠順抽選会」生アナウンス業務も加わった。決定直後の枠順と各馬を時事ネタを織り込みながら紹介。しかも生放送中にコメントを30分で準備し謳いあげるという、ムチャだけど楽しい仕事。そのために、流行語やキーワードを一年中書きためている。この時はキタサンブラックの馬主である北島三郎さんの名曲の数々も再確認して臨んだ。そのせいかどうか、「これが男の引き際だ」という実況になった。

本記事の全文(約1800字)は「文藝春秋」2024年12月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています(青嶋達也「定年前のラストラン」)。2025年8月末に定年退職を迎える青嶋アナ。10回目の有馬記念の実況中継にかける思いとは……。