「倫理的資本主義」とは
成田 分極化の構造の理解を超え、分極化してしまった社会に対して新しいビジョンを示すことはできるでしょうか。分極化が民主主義を蝕み、社会運営の典型成功モデルだった民主主義+資本主義の組み合わせが瓦解しつつあります。
ガブリエル 私は「倫理的資本主義(ethical capitalism)」を提案しています。つまり、道徳的目的によって導かれる資本主義です。倫理的資本主義の下では、経済活動は、人類の道徳的進歩にどれだけ貢献しているかによって評価されます。哲学者なので私はできませんが、道徳的進歩を数式や経済指標に落とし込むことは可能なはずです。むしろあなたのような経済学者の仕事ですよね(笑)。
成田 道徳的進歩や退化を数式や経済指標に落とし込めたふりをするのは、経済学者の十八番です(笑)。
ガブリエル 倫理的資本主義の背後にある政治的ビジョンを私は「エコ・ソーシャル・リベラリズム(eco-social liberalism)」と呼んでいます。その核心にあるのは〈経済活動は地球全体の生態学的・社会的システムと切り離せない〉という考えです。私がこれを「リベラリズム」と呼ぶのは、経済活動の最終目的は自由の拡大であるべきだと考えるからです。ここで言う自由とは単なる個人的自由ではなく、社会的自由を指します。たとえば、私がこの対談に参加せず、もっと早くスパに行っていれば、私個人の自由は増したでしょう(笑)。しかし、私たちはアイデアを交換し、互いに学び、さらに読者の考え方にも影響を与える可能性を選択しました。私たちの「共有された自由」は増大したわけです。
成田 となると、倫理的資本主義と、既存の民主資本主義はどう違うのでしょうか。民主資本主義では「何が倫理的か、共有された自由を増やすか」の判断は選挙やロビーイングのような民主過程に委ねられますよね。あなたのビジョンでは誰がそれを決めるのでしょうか。民主過程か、賢い哲学者か、どちらでもない別の何かでしょうか。
ガブリエル 私は「ビジネスの世界こそが、倫理を実装するための装置になるべきだ」と考えています。ここで決定的に重要なのは「道徳的事実」は客観的に存在するということです。たとえば、化石燃料は人類に巨大な恩恵と進歩をもたらしました。しかし今では、化石燃料中心の経済システムが、地球上の人間の生存条件そのものを破壊しています。その意味で“グリーン移行(green transition)”は単なる政治的志向ではなく「道徳的事実」なのです。
※約7500字の全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(マルクス・ガブリエル×成田悠輔「倫理的資本主義が必要だ」)。全文では、以下の内容が語られています。
・道徳的事実と経済的利益
・「最高哲学責任者」の必要性
・元祖CPOは渋沢栄一
出典元
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