公正証書遺言作成を体験!
法律のプロの力を借りて仕上げるもっとも確かな遺言書
死後に財産を寄付する「遺贈寄付」は、遺言書で意思を示す方法が一般的だ。なかでも安全性が高いとされるのが、公証役場で作成する公正証書遺言である。今回は東京・浅草公証役場の協力のもと、都内に暮らす70歳代の夫婦が、公正証書遺言を作るまでの手順を取材した。

【相談者プロフィール】
文春太郎さん(77歳)
妻 花子さん(73歳)
都内の戸建てに長男夫婦と同居。長女は九州で暮らしている。太郎さんの77歳の誕生日を節目に遺言作成を決意した。
77歳、妻と一緒に公証役場を訪問
年を取り、知人が病気で入院したという話を聞くことが増えてきた。友人の訃報を契機に、80歳になる前に終活を始めようと考え、遺言作成を思い立った。
自分で書けばすむだろうが、果たして法的に正しい遺言になるかは自信がない。公証役場に行けば法律の専門家である公証人がこちらの希望を聞いたうえで、適切な内容の文書を作ってくれるという。これならまず、間違いがない。
同居の長男夫婦が「母さんの分も一緒に作ってもらったらどうか」と言うので、夫婦で浅草公証役場を訪ねてみることにした。
「財産の相続は配偶者にかかわることですから、ご夫婦でいらしていただくのはとても大切です」。こう話してくれたのは、公証人の河村俊哉さんだ。
「最初にお電話でおおよその内容をうかがい、実際にお会いして具体的な希望を聞いていきます。戸籍謄本や金融機関の口座情報などの書類もご用意いただけるとスムーズですが、集めるのが難しい書類があればご相談に乗ります」
妻が先に亡くなる場合に予備的遺言で備える
私の腹案はこうだ。私の死後は自宅は妻に、預金は妻と子ども二人で分け、介護で世話になるであろう長男には多めに渡す。河村さんにこう話したところ「配偶者の方が先に亡くなられることもあり得ますが、その際はどうしますか」と尋ねられ、はっとした。
「財産を差し上げると決めた相手が自分より先に亡くなると、遺言のその部分は無効になる。作っていないのと同じことになってしまうのです」と河村さん。それでは、遺言を作る意味がない。
それを補うのが予備的遺言だという。
別に一通こしらえるのではなく、同じ遺言書の中に条項として、指定した相続人が亡くなった場合にだれが相続するかを書き加えるだけでいい。
妻は「私に財産などない」と渋っていたが、私が先に逝けば財産の大部分は妻に移るのだから、万一に備えて、妻も遺言を作成することに決めた。
遺贈寄付の条項を加えて子や孫に良い未来を残す
その妻が「預金の一部を、長く寄付を続けてきたNPOと公益財団法人に遺せないか」と言い出した。これも、遺言書に遺贈寄付の条項を追加すれば可能だという。
「お子さまのいらっしゃらない方など、遺贈寄付のご意向がおありの方は一定数いらっしゃいます」と河村さん。
夫婦で一緒に作りあげた財産だ。わずかばかりだが、遺贈寄付を通じて社会貢献し、子や孫により良い未来を残せれば、自分たちの歩みを誇りに思える。そこで私の遺言にも同じように遺贈寄付の条項を加えることにした。
後日送られてきた遺言書の文案を眺めると、当初考えていた以上にさまざまな希望が盛り込まれ、いっそう確実なものとなっていた。専門家の力を借りることの大切さを実感した。
口頭で希望を伝えてタブレットで署名
公正証書遺言は、証人二人の立ち会いのもとで、遺言者が希望を口頭で伝える「口授」をしたうえで、公証人が作成する口述録取の手続きを取る。
まず最初に名前と生年月日などの確認が行われた。改めて本人確認とは大げさのように思うが、「遺言が有効なものとなるように立会証人の前で確認をすることが必要であり、また、判断能力が備わっていることを改めて見ることもできます」と河村さん。それが終わると、いよいよ私が口授する番になった。
「どなたに財産を遺しますか」「その方が亡くなった場合はどうしますか」
やや緊張したものの、河村さんの質問に答える形で、事前に決めた内容どおり答えることができた。その後、河村さんが作成した遺言書を読み上げて内容を確認し、署名に移る。
公正証書遺言はデジタル化されており、署名にもタブレットを使うというから驚く。慣れないペンだが、思ったよりも滑らかに書けた。完成した遺言書の原本データは厳重に保存され、私にはその写しとしていわゆる正本・謄本が手渡された。
交代で妻も同じ手順を踏んで、遺言書を作成し終えた。帰り道、「作ってみるとあっけないものね」と妻は笑ったが、自分でやればこうはいかない。手間なく終えられたのは公証人の力によるところが大きいだろう。
ほかにも公正証書を使えば、尊厳死宣言や任意後見制度の利用なども可能になるそうだ。遺言書を作成しすっかり肩の荷が下りた気分だが、まだ終活は始まったばかり。この先も、お世話になるかもしれないな。そう考えながら、公証役場を後にした。