今年8月15日、日本古代史の研究者から成る、「皇室・皇位をめぐる議論に関する研究成果の尊重を求める古代史研究者の会」名義で、皇室典範改正に伴う自民党幹部の「皇位の男系継承は2600年以上にわたり先人たちが守り抜いてきた皇室の伝統だ」という発言を強く非難する声明が出された。『日本書紀』を「歴史書」と見なし、その内容をあたかも事実であるかのように発言することは、古代史の専門家からすれば考えられないことだ。
本書はそうした問題に直結する世襲王朝の始まりとなった天皇について深掘りする新書。のちに「継体天皇」と呼ばれるこの人物の実像をさまざまな史料から多角的に描く。
著者は日本・東アジア古代史の専門家で、2018年に同じ中公新書から刊行した『倭の五王』も話題を呼んだ。『古事記』『日本書紀』を別の史書と照らし合わせて批判的に読解する文献史学としてのアプローチに考古学の成果を活かすことで、歴史を精緻に描き出す。
「世間でもこのテーマへの関心が高まっていたことで、想像以上に幅広い読者に手に取っていただけた」と担当編集者の白戸直人さんは語るが、このタイミングでの刊行になったのはあくまでも偶然だったという。
「『倭の五王』からの流れでご相談していたので、企画自体は6年前です。もともと継体天皇は日本古代史で人気のあるテーマで、著者から提案されたときに、ぜひお願いしたい、と。今の状況を意識したわけではないんですよ」(白戸さん)
継体天皇について学ぶことは、単に天皇家の歴史を理解するだけにはとどまらない。5世紀以前の複数の豪族が並び立つ形の支配から、6世紀の血統を重んじるヤマト統一王による支配への移行という、日本の政治体制の変化を考えることにも繋がっている。国の形そのものが変わる時代を認識することができるのだ。
「ノンフィクション作家の高野秀行さんがX(旧Twitter)で、NHKの番組『未解決事件』を見るような面白さがある旨を紹介してくださっていましたが、そういった魅力もあると思います。限られた史料から証拠を集めて、答えを導き出す謎解きのような面白さがね。それも口コミで支持が広がっている理由かもしれません」(白戸さん)
2026年5月発売。初版1万3000部。現在8刷8万3000部(電子含む)
