――本庶先生、しばらく趣味のゴルフはできないかもしれないな。昨日の記者会見を見ながら、私はそんなことを考えていた。

 2年前、立花隆氏に同行して、京都大学に本庶佑氏を訪ねた。月刊「文藝春秋」に掲載する、立花氏と本庶氏の対談をまとめるためである。

 このとき本庶氏は、

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「大村(智)先生(2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞)とはゴルフ仲間でね。今年(2016年)の正月も一緒に行ったんだけれども、筋力が落ちて全然ダメだとこぼしていらっしゃいましたよ。聞けば、去年のノーベル賞騒ぎで全然ゴルフができなかったらしい」

  と語っていた。めぐりめぐって今度は本庶氏がノーベル賞騒ぎに巻きこまれつつあるわけである。

笑顔で会見に応じる本庶佑京都大学特別教授 ©時事通信社

これ以上の幸せはない

 昨日の会見で本庶氏は、記者からノーベル賞の受賞は待ちに待ったものなのかと問われ、それを否定した上で、次のように答えている。

「僕はゴルフが好きなので、ゴルフ場にしょっちゅう行きますが、ゴルフ場に来ている、顔は知っているけど、あまり知らない人が、ある日、突然やって来て、『あんたの薬のおかげで、自分は肺がんで、これが最後のラウンドだと思っていたのがよくなって、またゴルフできるんや』って、そういう話をされると、これ以上の幸せはない。つまり、それはもう自分の人生として、生きてきてやってきて、自分の生きた存在として、これほどうれしいことはない。僕は正直いって、なんの賞をもらうよりも、それで十分だと思っています」

 ここに本庶氏の人となりがあらわれているように思える。

免疫の「ブレーキ」の働きをする分子を発見

 今回、本庶氏のノーベル賞の対象となった研究成果は、新たながん治療薬(商品名オプジーボ)の開発につながったPD-1の発見である。

 PD-1は、いわばブレーキの働きをする分子である。T細胞と呼ばれる免疫系の細胞は、ウイルスや細菌など体内に侵入してきた外敵(抗原)を攻撃する。しかし適度なところで攻撃をストップしないと、自分自身の細胞を傷つけることになる。それを防ぐための巧妙な仕掛けがPD-1なのだ。