利用者からの苦情が一気に増えた
田園都市線も各社の車両がごった煮で乗り入れてくるのでただでさえ毎朝毎夕のラッシュ時には電車がつかえて遅延していたのが、さらに状態は酷くなった。また路線の老朽化から車両故障が頻発するなど利用者からの苦情が一気に増えたという。
通勤通学客のほとんどにとって、東京都心部まで一本の電車で通えるのはおおいにメリットがある。ところが、そこから先、小手指や森林公園に用事がある人は少なかろう。横浜の人が埼玉県や千葉県に用事で出向くことも少なそうだ。
そのいっぽうで乗り入れ後の休日には、埼玉県方面から大量の観光客が東横線に乗って横浜のみなとみらいに観光に来る、中華街で食事するようになったが、これも横浜の地元民からみれば、電車の雰囲気が変わってしまった原因のひとつかもしれない。彼らからすれば、毎朝毎夕の通勤時にはなんだか名前もわからない駅での事故の影響で待たされた挙句、休日にはわけのわからない乗客が大量に自分たちの街、横浜に押し寄せてくる。自分たちの電車がそうではなくなったような気分になるのかもしれない。同じ路線上にいろいろな人たちが乗った結果、路線のブランドイメージにも微妙に変化が生じたのである。
渋谷駅が単なる通過駅に
東横線の東京メトロ副都心線への乗り入れはもう一つの副産物をもたらした。渋谷駅を地下化してしまったために、横浜から渋谷に買い物にやってくるお客様がそのまま副都心線に揺られて新宿三丁目の伊勢丹に行くようになってしまったのだ。地下深くに潜ってしまった渋谷駅で降りて地上に出るよりも、伊勢丹なら駅直結である。渋谷は終着駅、乗換駅ではなく単なる通過駅に堕してしまったのだ。意外なポイントで人の流れは変わってしまうのである。
東急は渋谷に新しい複合施設「渋谷ストリーム」を開業して通過してしまったお客様を途中下車させようと躍起になっている。
それにしても以前、関西の大手私鉄会社の役員と話をしたときの記憶が蘇る。
「東京の電車はなんであんなに乗り入れ好きなんやろな。うちは絶対地下鉄にはつなげまへん。だって梅田でお客さん降ろさな、百貨店がもうかりまへんやろ」
通勤客の利便性重視ではじめたはずの鉄道相互乗り入れ、足元がぐらつく中、どうやら線路の足並みも乱れてきたようである。