わずか8世帯14人が暮らす山間の限界集落で、一夜にして5人が殺害された。ノンフィクション作家・八木澤高明氏の文庫新刊『殺め家』(鉄人社)が描く「現代の八つ墓村」事件の現場を、著者自身が訪ねた記録は、集落に漂う静寂と哀しみをそのまま伝えてくる。
「嫁さんが殺されたんだよ」
犯人の保見光成は中学卒業後、神奈川県川崎市で左官業を営み、気さくな性格で知られていた。44歳のとき、両親の介護のために故郷・山口県周南市金峰の郷集落へ戻った彼は、当初は村の集まりにも顔を出し、農作業を手伝い、村おこしを企画するなど積極的だったとされる。しかし両親が亡くなった頃を境に、村人たちとのトラブルが積み重なり、次第にほとんど村八分のような状態へと追い込まれていった。
2013年7月21日午後9時、保見は自宅近くの貞森さん宅に火をつけ、貞森誠さん(71歳)と喜代子さん(72歳)を殺害。同夜、隣家の山本ミヤ子さんも殺害し放火した。翌日には川の対岸へと向かい、河村聡子さん(73歳)と石村文人さん(80歳)を鈍器で頭部を殴り殺害した。5人の命が、一夜と翌日で奪われた。
著者が事件現場を訪れた2015年9月、集落には人の気配がほとんどなく、川のせせらぎの音だけが響いていた。保見の家は白壁に覆われ、土着の古い日本家屋が並ぶ中で異彩を放ち、入り口には今も警察の黄色いテープと、首のない女性のトルソーが残されたままだった。
川沿いの畑で唐辛子を収穫していた初老の男に声をかけると、せせらぎの音に消え入りそうな声でこう言った。「嫁さんが殺されたんだよ」——殺された河村聡子さんの夫だった。
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