夫を殺害し、その戸籍を引き継いだ別の男性と夫婦生活を送る女が、新たな相手と結ばれるために、さらに殺人を重ねていく「配偶者入れ替え連続殺人事件」。映画『本当にあった話(の話)』は、実際に起きたという設定の架空の事件を題材に、舞台劇をつくる人々を描いた鴻池留衣の同名小説を映画化した作品だ。殺害される夫・マサキに扮する役者・夛田を、水上恒司が演じた。

写真:釜谷洋史

監督からの指示は「もっと下手にやってください」

 本作は、人間の滑稽さや愚かさに面白さを見いだした作品だと思います。これまで僕は、真面目で爽やかな人物や、人間のきれいな部分を演じることが多かったので、ドロドロとした欲望を持つ人物を演じられることに、大きな魅力を感じました。

 夛田は、自分の選択こそが正しいと信じています。演じるうえでは、夛田にとって「自分だけが正しい」という感覚こそが現実なのだと信じる一方で、彼が正しいと考える選択が、いかに間違っているかも把握していなければいけない。その二面性を持ち続けました。

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「世間の目を気にすることなく、自分の意志を貫徹しようとする夛田の純粋さに、行為の是非はともかく、ある種の美しさを感じました」(武井監督)。©鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会

 夛田は、IT企業に勤めるプログラマーで、プロの役者ではない。「素人が芝居をする」という姿をどう演じたのか尋ねると、

 武井(佑吏)監督から「もっと下手にやってください」と言われたときは、「それは僕の演技が上手いということなのか? いや、そんなことはないだろう」と自問自答しました(笑)。セリフをかむべきなのか、呼吸を浅くするべきなのかなど、いろいろ試行錯誤してOKをいただきましたが、何が正解だったのかは、いまだにわかりません。

 とはいえ、「夛田が演技未経験者である」という設定は、僕にとってはそれほど重要ではありませんでした。それよりも、その場その場で「夛田鉄郎」という人間が何を感じ、それをどう表現しようとしているのかを重視しました。

 ひとつ意識したのは、呼吸です。最初は浅く、小さかった呼吸が、マサキという役をつかむにつれて深くなり、声や表情にも自信がみなぎっていく。『イエスマン “YES”は人生のパスワード』(08年)のジム・キャリーや、『ジョーカー』(19年)のホアキン・フェニックスのようなイメージではないかと、武井監督に話したことは覚えています。演技をまねたわけではなく、あくまで夛田の共通認識として、ですが……。

©鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会