こういう映画が、この世からなくならないでほしい
夛田を演じるのは楽しかったと水上は話す。
いまは、さまざまな価値観が認められる一方で、何を言い、どう振る舞うべきかが複雑になっています。そんな時代に、夛田という役を通して「おかしいのはお前たちだ! 僕は本当のことを言っているだけだ!」と叫べたのは楽しかったです。
もちろん、誰もが言いたいことを言い、やりたいことをすべてやったら、社会は破綻してしまいます。社会で生きるためには、思っていないことを口にすることもあるし、言葉と本心の間にずれを抱えることもあります。でも、そのずれのなかから、その人の本質がふっと見える瞬間を捉えることが、俳優という仕事の醍醐味だと思っています。
配信が強くなり、映画館で映画を観る人が減っているといわれるいま、興行を考えることはもちろん必要です。作品が利益を生めば、次の映画をつくることもできる。ただ、集客や売上だけを優先すれば、クリエイティブな部分が痩せてしまう可能性もあります。だからこそ、簡単には理解や共感に回収されない本作を、面白いと思ってくれる人がいたらうれしい。こういう映画が、この世からなくならないでほしいと思います。
藤長祥平=スタイリング/Rina Kajiwara=ヘアメイク
みずかみ・こうし 1999年、福岡県生まれ。2018年俳優デビュー。『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(23年)で第47回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。近作に『九龍ジェネリックロマンス』、『火喰鳥を、喰う』、『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』(すべて25年)、『TOKYO BURST-犯罪都市-』(26年)がある。
INTRODUCTION
原作は、芥川賞候補作家の鴻池留衣による中篇小説『本当にあった話(の話)』(初出『フェミニストのままじゃいられない』から改題)。〝実際に起きた殺人事件〟というフィクションを題材に、虚構が現実を、妄想が真実を飲み込んでいく戦慄と興奮を毒気混じりのユーモアで描き出した。監督は本作で商業映画デビューを飾る武井佑吏。舞台を手がける脚本家の垣内に小池栄子、演出家の加藤に佐々木蔵之介、もうひとりの舞台の主人公を務める米良に黒木華と、人気と実力を兼ね備えた俳優たちが顔を揃えている。
STORY
世間を震撼させた「配偶者入れ替え連続殺人事件」から数十年後。演出家の加藤と脚本家の垣内は、実際に起きた事件にもとづく舞台劇の制作に取りかかっていた。主人公の貴子とマサキに抜擢されたのは、女優として活路を見出せずにいる米良と、素人の夛田だった。役柄に自分の経験を重ね、深くのめり込んでいった夛田は、やがて役と現実の境目を見失ってしまう。舞台の本番が間近に迫る中、ついに恐ろしい出来事が起きてしまい――。
STAFF & CAST
監督・脚本・編集:武井佑吏/原作:鴻池留衣『本当にあった話(の話)』(文藝春秋)/出演:水上恒司、黒木華、山下美月、大東駿介、山本浩司、小池栄子、佐々木蔵之介/2026年/日本/119分/配給:東京テアトル/murmur/©鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会/2026年10月2日より全国公開。


