「日程を采配することに違和感がある」。9月3日、経団連の中西宏明会長がそう発言したのをきっかけに、就職活動ルールの見直し議論が始まった。そして10月9日、中西会長は、「就活ルール」
経団連は「採用選考に関する指針」で、大学3年生の3月1日に説明会を解禁し、大学4年生の6月1日に面接を始め、10月1日に内定を出す日程を示している。中西会長は拘束力がなく、抜け駆けする企業も多いこのルールが無意味だとした。
中西会長が問題提起したのは、出身母体である日立製作所の採用活動の現場を知っているからだ。人財統括本部長の中畑英信専務はこう語る。「新卒採用は日本固有の慣習ですよ。海外はポストありきで、欠員が出たら補充するだけ。採用だけではない。終身雇用や春季労使交渉など日本は独特の仕組みが多い。これは見直す必要があるんじゃないですかね」
日立はグローバル・メジャー・プレーヤー入りを目指し、かつてベンチマークとしてきた米ゼネラル・エレクトリック(GE)や独シーメンスなどと伍して戦おうとしている。そのために社内に根付いたさまざまな仕組みを「日本基準」から「世界基準」に変えている。新卒一括採用も変えたいところだが、中西会長が率いる経団連も絡んだ日本独特の慣行が邪魔をしている。
中西会長は日立の課題を国の問題に昇華させたと言えなくもない。しかし注目すべきは、国が日立の問題意識を受け止める姿勢を見せていることだろう。政府は10月5日に開いた未来投資会議で、新卒一括採用のあり方も含めた雇用改革の議論に着手した。
日立と政府の蜜月が目立つようになっている。雇用制度を巡る議論ばかりではない。中西会長が旗を振る「Society(ソサエティ)5.0」は、センサーなどを使ってさまざまなデータを取得し、AI(人工知能)などで解析して鉄道や電力システム、都市基盤などを一変させた社会のこと。それは日立が最も注力するビジネスであると同時に、6月15日の閣議決定で政府の国家戦略にもなった。
政府との二人三脚をどう思うのか。そんな疑問を日立の東原敏昭社長にぶつけてみると、「国との距離感はまったく気にする必要はない」という答えが返ってきた(インタビューの詳細は月刊「文藝春秋」11月号に掲載している)。
企業の経営戦略と国家戦略の歩調が揃っているのは、企業にとって我田引水にならない限り、悪いことだとは思わない。データをどう料理して、新しいモノやサービスを生み出すかという競争は熾烈で、日立は米グーグルやアマゾン・ドット・コムのようなITの巨人とも戦わなければならない。国のバックアップは必要なことだろう。
しかし国と近い存在であることはいいことずくめではない。政府が掲げた原子力政策に乗った東芝は経営危機に陥った。日立はどうバランスを取るつもりなのか。日立の今を追った企業リポートを「文藝春秋」11月号に寄稿したが、そのような観点に立って読んでいただけるとありがたい。