「転勤は、もはや時代にそぐわない。廃止すべき――」。3年前から、そう提言をしているのがリクルートワークス研究所の大久保幸夫氏(57)だ。その最大の理由は、「社員のワークライフバランスに悪影響を与えていること」。日本独特の「転勤制度」は、なぜ続いてきたのか。大久保氏に聞いた。
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昨年1年間に転勤(引っ越しを伴う人事異動)を経験したサラリーマンは、60万4000人もいました(リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」2018年)。20歳から59歳の正社員の2%に当たります。このうち家族帯同は39%。単身赴任が63%です。会社は社員とその家族に対して、引っ越しや子どもの転校を迫ったり、離れ離れの生活を強いているのです。
企業が「転勤」をさせる3つの事情
企業が転勤を行なう目的は、3つあります。しかし現在では、いずれも合理的な理由を失っていると私は考えています。
・人材の需給調整
上の調査で転勤した人の内訳を見ると、「係長・主任クラス」以上の役職者は40%にすぎず、「役職なし」が59.8%を占めています。年齢的にも、40歳未満の人が62.5%です。余人をもって代えがたい転勤なら、管理職以上に限ればいいはず。これら若手・中堅層は、ローテーションで動かされているにすぎません。その地域で人材が欲しいのであれば、転勤なしを前提に現地採用するほうが集まりやすいはずです。
・人材育成効果
ジョブトレーニングとしての意味合いを企業は強調しますが、能力開発に役立つのはジョブローテーションであって、転勤ではありません。かつては、地方支社や工場勤務を経験することで、会社の業務全般を理解できるといわれました。しかしいまでは、交通と通信の手段が格段に進歩しました。わざわざ転勤しなくても、出張やテレビ会議で業務の理解はかなり可能なはずです。
・マンネリの防止
さまざまな企業で本音を聞くと、転勤の最大の目的はここにあるようです。「転勤にはリフレッシュ効果がある」「単身赴任で羽を伸ばすのもいいもんだよ」と公言する経営者も多くいます。しかし、日常業務がマンネリ化するのなら組織の体質を合理的に改革すべきだし、モチベーションを高めるためならジョブローテーションを行なうべきでしょう。