リクルートワークス研究所の大久保幸夫氏(57)は「転勤は、企業にとっても“コスト”になっている」と語る。しかし、いまだに日本企業では、年間60万人以上が転勤を続け、個人のライフスタイルに多大な影響を及ぼしている。いっぽうで、一部の企業が人材確保のために「転勤制度」を見直し始めた。その具体的事例とは――。
※〈「転勤」が時代遅れになった、これだけの理由〉より続く
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優秀な女性社員が辞めていく
私が「転勤制度はおかしい」と考え始めたきっかけは、一緒に仕事をしていた女性社員が続けて3人、他社に勤める夫の転勤についていくために退職したことでした。本人は仕事を続けたがっているのに、辞めざるをえない。これは本人のキャリア形成の妨げになるし、会社にとっても損失だし、とても女性活躍社会とはいえません。
他社の人事担当者からも、同じ憤りの声をしばしば耳にします。しかし、自社の転勤命令が他社の女性社員に迷惑をかけていることには、思いが至らないようです。
共働き世帯が6割を超えた現在、夫への転勤命令は、単身赴任か、妻が仕事を辞めるかの選択です。そこへ親の介護、持ち家、子どもの教育や学校といった問題が加わります。
結果として、単身赴任が6割を超えるのです。しかもその人数は、年々増えています。
単身赴任も、配偶者が仕事を辞めざるを得ないのも、どちらも不条理です。転勤は、“働く夫と専業主婦の妻”が標準世帯だった時代にギリギリで成り立っていた制度だというほかありません。
学生たちにも「地元志向」が増えてきた
新卒で入社する学生の世代でも、「転勤のない会社で働きたい」「地元で就職したい」と希望する人たちが増えています。理由のひとつは少子化です。奨学金を借りている人が多いので、返済のために実家住まいのほうがいいという経済的な理由もあります。
若者雇用促進法も、地方の衰退を防ぐため地元で就職しやすい環境を整備しています。そのため地場志向が強まり、地場の中規模の会社と東京や大阪の大企業を比べた場合、転勤のない地場の会社を選ぶ若者が増えているのです。