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私鉄11社が人事交流制度を取り入れ始めた

 転勤によって失った人材を取り戻そうとする、制度作りも始まりました。地方銀行64行による「地銀人材バンク」は、配偶者の転勤などで退職する地銀の職員を、転居先にある別の地銀に紹介したり、元の地域に戻ったときの再雇用をしやすくする制度です。仕組みを作ったのは「輝く女性の活躍を加速する地銀頭取の会」で、2015年から運用が始まりました。就活中の女子学生も高い関心を示しているのは、自分は地域密着型の企業に就職しても、将来の配偶者が転勤する可能性を考えるからでしょう。鉄道業界でも、東京・大阪・名古屋・福岡の私鉄11社が、今年6月に同じような人材活用の仕組みを設けました。

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「転勤回避」か「エリア内移動」か 試行錯誤を始めた3社

 転勤を減らす取り組みを始める企業も現われています。たとえばキリンは、2013年から「転勤回避措置制度」を導入しました。どうしても転勤したくないときに断わることができるという切り札で、当初は1回だけ最大5年だったのが、いまは2回で分割して使えるようになっています。女性社員の提言から生まれた制度で、出産・育児での利用が多いそうです。利用しても処遇に影響はないということですが、いつ切り札を切るのか、社員は難しい判断を迫られそうです。

 AIG損害保険では、全国を13エリアに分割し、異動をエリア内に限定します。望まない転居を伴う異動は行なわないという趣旨で、本人が「ジョブ・ポスティング制度」を希望した場合や幹部候補生については、相談した上での転勤もあります。今年7月から2エリアでテストを行ない、来年1月から全国へ拡大する予定です。

 三菱UFJ銀行が導入するのは、転勤がある勤務と地域限定を年単位で選択できる制度です。賃金体系は同一とのことで、こちらも2019年4月からスタートする予定です。

本人の希望を前提とすべき

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 私は転勤制度自体の廃止に向けて、以下の5つの提言を行なっています。

・転勤の規模を縮小する。一気に廃止すると、賃金制度などを波及的に変える影響が大きいので、必要最小限の転勤に限ることから始めます。

・時期、期間、場所などのルールを明確にする。会社としては人事権を限定されることになりますが、必要な配慮だと思います。

・転勤経験をキャリアパスの要件から外す。不文律として転勤を採用や昇進の条件とする会社も多くありましたが、2014年の改正雇用機会均等法施行規則で「間接差別」だとして禁止になっています。

・転勤プレミアムを廃止する。転勤を前提とした賃金上乗せを止めます。

・本人同意を前提とする。本人が希望したり受け入れた転勤のみ、実行します。

 最終的には、全ての社員を地域限定にすることを、雇用のスタンダードにすべきです。現在のように全国転勤型正社員の下に補完的な存在として地域限定社員を置くのではなく、全員を地域限定社員として、地方の支社や営業所ごとに採用します。その上で、転勤は希望者と管理職に限定し、海外勤務にはグローバルキャリアコースというような、別の人事コースを用意するのです。

 社員にどんどん転勤をさせる会社は、女性社員が退職していき、新卒の若者には敬遠されてしまいます。優秀な人材を逃していることに、早く気づくべきです。働き方改革の先陣を切って「転勤廃止」を宣言する企業が出てくれば、人材獲得競争において大きなアドバンテージを得ることは間違いありません。

取材・文=石井謙一郎

(写真=深野未季/文藝春秋)

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