バッグから覗く平沼選手とも目が合った
前の席の男性はどうしてアルシア選手をラミネート加工しようと思いついたのか。その人選。他には平沼選手がラミネートされていた。その人選。
ふと視線を下ろすと、彼の足元にあったバッグから覗く平沼選手の生首と目が合った。とてつもなく滑稽な状況なのに、私はそれがなんだか嬉しかった。
この人も平沼翔太に注目してくれている。放っておけなくて、きっと夜、眠れず生首を作ってラミネート加工したのだ。見ず知らずの方だけど、生首ありがとうございます。
そうだ、私にも眠れなくなる夜がある。
ファイターズはめぐり逢いの球団だ。不思議な縁に導かれるようにやって来る選手もいれば、去る選手もいる。特にFA移籍やトレードの多さには定評があり、「選手は試合に出さなければ育たない」というコンセプトの徹底ぶりが窺えるだろう。
しかし、いちファンにとってはそれが怖くてたまらないのだ。好きな選手が怪我をしてファームに行き、その穴を埋めにきた別の選手が実力を発揮したとき。好きな選手が打撃不振でファームに行き、同じポジションに入った別の選手が快音を響かせたとき。
可能性を信じ、出逢いを大切にするチームだからこそ、怖い。
住んでいる場所柄、2軍球場である鎌ケ谷スタジアムへも時たま足を運ぶ。1軍の舞台で花を開かせる寸前の、青い蕾を見るためだ。けれども全ての蕾が開花する訳ではないように、能力を発揮しきれずファイターズのユニフォームを脱ぐ選手もいる。その時に「もっと応援しておけばよかった」なんて後悔したくない。
選手と私たちが同じチームのなかにいられるのは人生のごく短い時間なのだ。だから、応援する選手がたったの1打席にすべてを燃やすように、私たちも生首をぶんぶん振り回し、ツインバットを叩き続ける。
「バッター中島卓也に代わりまして、平沼翔太」
7月の熱気がZOZOマリンスタジアムに立ち込めるなか、平沼選手が打席に向かう。永遠の夏。仲間が生首を見て笑い転げている。
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