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エディ・ブロックの役作りへの取り組み

――今回、エディ・ブロックの役作りにはどのように取り組まれましたか? ジャーナリストから負け犬に転じ、ヴェノムに〈寄生〉されてから最強の力を得るという、じつに振り幅の大きい難役です。

諏訪部 なにしろエディ・ブロックはほぼ全編しゃべりまくりなので、台詞も多く大変でした。トム・ハーディさんは、エディをとても表情豊かな人物として演じられています。これまでの彼のイメージとは趣を異にするキャラクターのような気がしますね。実際、声のトーンも全体的に高めというか。時に裏返ってしまったり。ワイルドさやタフさというより、ちょっと残念な感じが前面に来るような雰囲気です。そんな振り幅の大きさも魅力的なエディに寄り添い、オリジナルのニュアンスをしっかりと表現するのが自分の課題でした。

――トム・ハーディは大人の色気と少年のイノセント性が同居する稀有な役者ですよね。まさに、セクシーさと野性味が同居する諏訪部さんの声はぴったりです。

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『ヴェノム』11月2日(金)全国ロードショー

諏訪部 そう言って頂けるとありがたいです。しかし今回は、原音の声に合わせて自分も全体的に高めのトーンで演じています。低い、太い、渋い、格好良い、基本的にこれらはNGと演出サイドから枷をはめられてしまい(笑)。トム・ハーディさんの外見や、これまで吹替されてきた声のイメージからすると、最初は違和感を覚える方がいらっしゃるかもしれません。実は自分も、本作におけるエディ・ブロックのキャラクター性を表現するためにこのテイストを選択した演出の妙は、日本語吹替版を試写で全編通して観てはじめて感じ取ることが出来ました(笑)。ヴェノムとのコントラストも考慮に入れられていたような気がします。

――ヴェノム役の中村獅童さんとの掛け合いはいかがでしたか?

諏訪部 残念ながら中村獅童さんとは御一緒出来ておらず、収録は別々でした。仮に一緒の収録だったとしても、ヴェノムの声にはボイスエフェクトの加工が入るので本番は別録りになっていたと思いますが。自分の解釈としては、エディとヴェノムは一心同体というよりもバディ。それぞれの足りないところを補いあうような間柄といいますか。獅童さんのヴェノムと自分のエディも、そういう雰囲気は出せているのではないかと個人的には思っています。

中村獅童さんが吹替を演じたヴェノム

正義の味方を凌駕するような力を持った悪役の魅力

――ヴェノム化して「悪」が増殖するプロセスは面白かったですか?

諏訪部 近年は主人公やそのサイドを演じる機会も増えましたが、これまで演じてきたキャラクターは、対立するライバルや悪役が多かったように思います。しかし、心に闇を持っているようなキャラクターのほうが掘り下げ甲斐があるというか。より人間味を感じたりして、演じていてとても楽しいんですよね。例えるなら、自分は太陽よりも月のほうがいい(笑)。正義の味方を凌駕するような力を持った悪役は、非常に魅力的に映ります。ヴェノムの人気の源泉も、そういうところにあるのではないでしょうか。

©志水隆/文藝春秋

――悪役のほうが掘り下げがいがあるって、その通りだと思います。今回、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントと「週刊文春」が全面タイアップして、『週刊文春シネマ特別号ダークヒーロー特集』が誕生しました。ご覧になっていかがでしたか?

諏訪部 映画『ヴェノム』が完成するまでの紆余曲折秘話は非常に興味深く読ませて頂きました。ひとつの作品が世に出るまでに、こんなにも様々な困難があったとは。そして、こんなにも情熱が注がれていたのかと驚きました。裏側を知ると、作品との向き合い方が変わりますね。よくぞ完成してくれたと心優しくなれます(笑)。自分は映画のエンドロールは最後までしっかり見る派なのですが、そのクレジットされたひとつひとつのお名前から「この人たちはどういう思いを作品に込めたのだろう?」なんて、いつも思いを巡らせます。もし本作を御鑑賞頂く機会がありましたら、場内が明るくなるまでお席を離れないことを強くオススメいたします!

――『ヴェノム』はさまざまな困難を経て生まれた映画ですし、映画の悪役の系譜をたどると、いまの時代に生まれるべくして生まれたニューヒーローな気がします。

諏訪部 光あるところ必ず影があります。ピュアな正義を振りかざされてもリアリティを感じにくい現代においては、むしろダークサイド…というか、プリミティヴさを力の源とするヴェノムの在り方に、共感を覚える方は少なくないのでは。ぜひ劇場でスカッとして下さい! よろしくお願いします。

諏訪部順一(すわべ・じゅんいち)声優・ナレーター。1972年、東京都生まれ。主なアニメ出演作は『Fate/stay night』アーチャー、『ユーリ!!! on ICE』ヴィクトル・ニキフォロフ、『僕のヒーローアカデミア』相澤消太など。セクシーな二枚目からマッチョなタフガイまで様々なキャラを演じる。