文藝春秋11月号の特選記事を公開します。(初公開 2018年10月13日)
9月15日に75歳でその生涯を終えた樹木希林さん。小雨の降る中、30日に行われた葬儀には、吉永小百合さんや北大路欣也さんなど、交流のあった著名人が集まって別れを惜しんだ。
網膜剥離や乳がんなど、晩年は病とともに過ごした日々だった。独特の感性に基づく発言の数々。そして、テレビや映画での名演技――。樹木さんの人生は一言では語りつくせない。
その中でも、特に樹木さんらしさが感じられるのは、夫の内田裕也さん(78)との関係ではないだろうか。
樹木さんの訃報を受け、「人を助け人のために祈り人に尽くしてきたので天国に召されると思う。見事な女性でした」と語った内田さんだが、2人の結婚生活は独特だった。
樹木さんは64年に俳優の岸田森さんと結婚し、4年後に離婚。73年に内田さんと再婚した。長女の也哉子さん(42)の誕生前にすでに別居は始まり、40年以上離れ離れの生活を送っていた。
81年には内田さんが一方的に離婚届を区役所に提出し、希林さんが離婚無効の訴訟を起こして勝訴するという騒動もあった。
「夫は優しい人だった」
実は樹木さんは、左目の網膜剥離と乳がんを患った後、ひそかに内田さんに謝罪をしたのだという。樹木さんはかつて「文藝春秋」の取材に対し、その理由を語っていた。
〈いざ「死」というものを突きつけられると、ガラリと心境が変わった。なぜ、自分には言葉を発するための口が与えられているのに、謝れないのか。これまで放っておいたことを含めて、すべて謝ろうと思いました〉
謝罪の後の内田さんは、〈すごくテンションが高くて、とても嬉しそう〉だったという。
〈若いときはあんなに喧嘩ばかり繰り返していたのに、私が自分の悪い点を見据えて、頭を下げるようにしたら、夫は実は優しい人だったんです〉
〈あるとき、離れていても何かにつけて内田のことが頭をよぎるという話をしたら、(内田さんも)オレもそうだった、と。何かと私のことが頭をよぎっていたと聞かせてくれた。やっぱり夫婦なんです〉
他人から見ると、実に変わった、個性的な夫婦といえるだろう。しかし、2人の間には確かに深い情愛があった。その愛を貫いた樹木さんは、まさに「見事な女性」だった。
「文藝春秋」11月号では、樹木さんがかつて取材で語っていた秘話を掲載。関係者への取材とともに、樹木さんの家族への思い、死生観などを紹介している。