あいみょんの「マリーゴールド」、いいなって
――ちなみに戒告処分が出たあとは何を聴きましたか?
岡口 あいみょんの「マリーゴールド」。
――あいみょん!
岡口 家ではMTVつけっぱなしにしているんです。で、たまたま、あいみょんのMVが流れてたんです。あ、この曲いいなって思った。
――いい曲ですよね。
岡口 紅白に出られることになってね、さすがあいみょん、よかったねと思いました。
――紅白といえば、岡口さんは「裏紅白」の審査員に選ばれてましたね。
岡口 あれね、1年ぶりなんですよ、審査員に選んでいただいたの。2016年に出場して以来です。世間的には「きわものキャラ」なんでしょうね。
――いかがですか、再び審査員を務めるお気持ちは。
岡口 来年も選んでいただけるように頑張ります(笑)。
処理に長けた裁判官が出世していくようなことがあってはならない
――それも期待しつつ、今後はどうお考えなんですか?
岡口 正直、人生1回しかないからいろんなことやりたいと思っています。処分後の記者会見でも少し話しましたけど、最高裁がこんなでたらめな決定を出すようなところだから、下がどう頑張っても意味ないかなって、ちょっとやる気が起きにくいところは正直あります。でも、応援してくださる方がたくさんいて、「岡口さんが辞めないで、ここにいることに意味があるんです」って裁判所の地下食堂で励ましてくださる方さえいます。ですから、その声にも応えたい気持ちもあるところです。
――弁護士への転身は考えていませんか?
岡口 それはないです。やるなら法曹向けのビジネスですね。私はプログラミングができるので、ITと組み合わせた法曹ビジネスのマーケットを開拓していきたいと思ってます。
――最後に、裁判官として岡口さんが考える「正義」って何ですか?
岡口 裁判も人間がやるもので、完全なものにはなりません。だからと言って不完全でいいわけがなくて、裁判官はできる限り「悪いほう」を勝たせないようにしなければいけないと思っています。原告と被告のどちらも「我こそが被害者です」というのですが、間違えて悪いほうに利益を与える判決を出してしまうと、もう一方の当事者は被害を受けて、さらに裁判でも傷つけられる二重のダメージを受けてしまうわけですから。それを防ぐためには、時間がかかっても、労力がかかっても事件に向き合い続けるということしかないと思っています。
――対談本の中で岡口さんは「裁判官はストレスがない」と発言されていましたが、あれはかなり露悪的な発言で。
岡口 そうですね。悩む裁判官は相当なストレスを抱えます。私も土浦で判事補やっていたときに少年事件を扱ったことがあり、辛かったですね。少年事件はその子の一生の問題になってしまうので、決定を出すにあたっては非常に神経を使いました。ですから、悩むことなしにパッパと事件処理してしまうのは問題があると思いますし、そういう処理に長けた裁判官が出世していくようなことがあってはならない。正義の実現とは悩むことからしか始まらないんだと、私は思っています。
写真=平松市聖/文藝春秋
おかぐち・きいち/1966年大分県生まれ。東大法学部卒。94年、浦和地方裁判所判事補任官から裁判官としてのキャリアをスタート。福岡地裁判事などを経て2015年東京高等裁判所判事。現在、東京高裁第22民事部に在籍。