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40歳になる井川慶は、なぜこんなに楽しそうなのか

文春野球コラム ウィンターリーグ2018

2018/11/28

元巨人投手相手に30分ほど続いたピッチング指導

 謳歌しているといえば、台湾人寿戦の後にはこんなこともあった。井川は試合後まで残りファンサービスに精を出していた。球場の階段を降りたらそこに井川がいる。体が震えて仕方がなかった。子供の頃から見ていた阪神タイガースの絶対的エースが目の前にいる。ガクガクしながらサインと写真撮影をお願いした。こんなに緊張することは今後しばらくないと思う。

 そしてしばらくして井川は「おつかれっしたー」と言い、駐車場に歩いて行った。ユニフォームを着たまま。いや着替えないのかよ! と思ったが、そのまま自身の車まで歩いていく。そこでもファンと写真を撮りながら、サインをしながら歩いていたが、一人の男が井川に声をかけた。台湾人寿に所属する長江翔太投手。元巨人。どうもピッチングについて聞きたかったようだ。

 そこから井川の独壇場が始まった。カウントごとの球種の選び方、打者心理についてや投球フォームを向かい合いながら指導するなど、とにかく話し出したら止まらない。長江も井川に食い下がる。どんどん指導は熱を帯びる。結局井川の車の前で30分ほど講義は続いた。なお、その間に台湾人寿チームが乗るバスが出発してしまっていた。長江が帰れたのかは定かではない。

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 ただマイペースなイメージの井川が他の選手にアドバイスをする、ということがあまり想像できなかった。ひょっとしたら井川、コーチの素質があるのでは? とも思った。ただピッチングを見るとまだまだ現役で出来そうな気がしてしまう。井川慶、つくづく悩ましい男だ。

楽しそうな「エース」をまた見たい

 11月のOB戦の前には車で球場に到着するなり兵庫ブルーサンダーズの現役選手にあっという間に取り囲まれた。ひとまわり以上年の離れた選手たちと話は盛り上がっていたようだった。楽しそうな時間を過ごしていた。

 そう思えば球場に入ると誰よりも「ゴツい」体を揺らしてアップをし投げ始める。投げている時の井川は投球フォームも昔のままだ。鳴尾浜でラジコンを飛ばして怒られるとか、髪の毛をボサボサになるまで切らないとか、新幹線のグリーン席を払い戻して普通席に座るとか、それだけが井川じゃない。長年見ていたはずの井川慶を私は知らなすぎた。

 もっともっと色々な井川慶を見てみたい。来季の所属は決まっていないし、どうするかは全く公表されていない。本人もNPBに戻るのは難しいと自覚をしているようだ。あれだけの好投をしたにも関わらず翌日そんな記事が出た。メジャーに行ったり、ブランクが何度か出来ているのであまり思ってもいなかったが、気づけば来年40歳だ。ボロボロになるまでとか引き際がとか言うけれど、ただただ、井川の投げたり笑ったりするところを見たい。どんな道を選ぶにしても、楽しそうな「エース」をまた見れたら嬉しいな、と思う。

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