来年で還暦を迎える母親が先日、こんなことを言ってきた。「この前、テレビのインタビュー見たけど、糸原選手って男前やね~」。昨年の今頃は「中谷選手って格好良いね」と言っていた気もしないではないが、「確かに人気はすごいよ」と、適当にうなずいておいた。

 若虎に目移りしがちな母は参考にならなくても、11月1日から高知県安芸市でスタートした秋季キャンプを取材しながら実感したのは、糸原健斗へ送られる声援の多さだ。スタンドを見渡しても、背番号33のレプリカユニホームに、手作りのメッセージボードや、マフラータオルを掲げる虎党が特に目立つ。

ファンの心をつかむ才能

 今年3月から、学生を中心に若年層にもスポニチを身近に感じてもらうため「チャリコ遠藤」のアカウント名でスポニチ公認の個人ツイッター(@sponichi_endo)を開設したのだが、そこでも、シーズン中から糸原関連のつぶやきや、写真への反応は群を抜いている。

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 例えば11月11日。26回目の誕生日を迎えた糸原は練習後、両手で抱えきれないほどの紙袋をぶら下げて、メイングラウンドから室内練習場へ引きあげてきた。照れくさそうに「もう持てないっす……」と笑った瞬間を収めた写真をアップしたところ、あっという間に「いいね」は、4ケタに到達。現地でプレゼントを渡したファンからすれば「こんな“ハニカミ”を見せられたら……」と、さらに応援したくなることは容易に想像できる。笑顔、発する言葉、自然な対応と、何気ない仕草でファンの心をつかんでしまう才能が備わっているのだと思う。

両手で抱えきれないほどの紙袋をぶら下げている糸原健斗 ©遠藤礼

 もちろん、人気だけでプロは飯を食っていけず、プレーヤーとしての魅力や、実績があってこそ。社会人のJX-ENEOSから16年のドラフト5位で入団。下位指名ながら、実力ではい上がり、派手な本塁打で目立つのではなく、気持ちを前面に出したプレースタイルも感情移入しやすい。

 2年目の今季は、チームで唯一の全試合出場を果たして、打率.286、152安打を記録。糸井嘉男に次ぐチーム2位の出塁率.390、リーグ4位の86四球と選球眼も魅力で、最下位に沈んだチームにあって、不動のリードオフマンとして孤軍奮闘した。矢野燿大新監督のもと迎える来季も、上位打線に座る可能性は高い。