2000年代にデブリが急増した2つの事件
宇宙監視部隊といっても、何を監視するのだろうか? 答えは「地球周回軌道上の観測できるものすべて」と言っていいだろう。人類が宇宙空間に進出して以降、様々な物体が持ち込まれたが、それらのうち不要な人工物が宇宙ゴミ(スペースデブリ)と呼ばれている。ロケットや人工衛星のわずかな破片であっても、低軌道では秒速約7.5kmの速度で周回しているため、稼働している人工衛星や宇宙飛行士に命中すれば、破壊的な結果をもたらすことになり、宇宙が様々なかたちで利用される現在、デブリは深刻な脅威として認識されている。
現在、地球周回軌道上にある物体の数について、NASAは次のグラフの通り発表している。
このグラフでは軌道上にある物体は総じて増加傾向にあることがわかるが、2000年代後半にデブリ片が急増している時期が2点あることが見て取れるだろう。2000年代に相次いで起こったこのデブリ急増は、それぞれ意図的なものと、偶発的なもので、宇宙空間への国際的な認識が改められる契機ともなった。
意図的な破壊、偶発的な衝突
まず、宇宙空間における意図的な破壊としては2007年1月、中国が運用停止した自国の気象衛星「風雲1C」に対して行った衛星攻撃(ASAT)実験により、3000個以上の追跡可能デブリ(1辺が10cm以上のもの)を発生させている。それまでデブリの年間増加数が200個程度だったことをみれば、これがいかに大量かわかるだろう。
また、中国によるASAT実験は、デブリ発生以外にも大きな衝撃をもたらした。かつて、冷戦中も米ソがASAT実験を行っていたが、1980年代を最後に両国による実験は行われなくなっていた。しかし、2007年の中国によるASAT実験成功は、経済的・軍事的に重要なインフラが宇宙空間に構築されている21世紀に入ってからのことで、1980年代より深刻度が桁違いに大きなものとなっていた。このため、中国のASAT能力獲得は、軍事における新たな作戦領域として、宇宙空間が再認識されることにも繋がった。
次に偶発的な事故も発生した。2009年2月には、北シベリア上空の宇宙空間で、運用中の米イリジウム社の通信衛星「イリジウム33号」と、運用を停止したロシアの軍事通信衛星「コスモス2251号」の衝突事故が発生した。この事故では双方の衛星から、2000個以上の追跡可能なデブリが生じている。
これは初めての人工衛星同士の偶発的な衝突(デブリと衛星の衝突は過去に複数あり)で、しかも当時宇宙空間を監視していた機関のいずれも衝突を予見していなかった。
このように2000年代に衛星の意図的な破壊、偶発的な衝突が相次いで起こったことで、安定的な宇宙利用の障害に対する意識が世界的に高まり、SSAの重要性が認識されるようになった。