私がAP通信社の平壌支局長になって、ちょうど5年になります。その間、数十回、ほぼ毎月のペースで北朝鮮に通い、ほとんど何も知らなかった国がある程度、理解できるようになりました。しかし、まだまだ、謎めいたことも多くあります。

 例えば、今、最高指導者の金正恩氏が何を考え、何を狙っているのかは、誰にもわからないのです。いずれにせよ、建国70周年の2018年は、間違いなく朝鮮半島にとって歴史的な年でした。どこへ進むかは不透明であっても、戻ることはできません。

2010年、父・金正日(左)と軍事パレードを観閲する金正恩氏(右) ©共同通信社

 北の「核」問題が世界の関心の的であるのは当然です。金氏もこれを良く分かっています。核の脅威も上手く利用していて、アメリカ大統領のトランプ氏、中国の習近平氏、韓国の文在寅氏などと会談が出来たのは、その「大成果」といっても過言ではありません。

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 しかし、私は金氏の政策のもう一つの面を考えてみたいと思います。それは経済開発です。金正恩氏は最高指導者になって間もなく、父・金正日と祖父・金日成の「先軍」「主体」に加え、自分のポリシーである「並進」を発表しました。つまり、核開発と経済開発を同時に促すというわけです。

北朝鮮の核施設 ©共同通信社

北朝鮮にある「中国資本主義」の影

 良く知られたとおりアメリカをはじめ世界各国は経済制裁を科しました。一方で、隣国の中国はどうしたでしょうか。じつは、これには、解り難い側面があります。都合の悪いデータを発表したがらない両国ですから、はっきりしないことがたくさんあるのです。しかし、一つ言い切ってもいいことがあります。中国は北朝鮮の経済状況に強い影響力を持ちつづけています。石油だけに絞っても、中国からの輸入がなくなったら、北朝鮮は致命的な状況に陥るでしょう。

 しかし、それだけではない、もっと興味深い側面を私は見てきました。

 それは草の根から見えてくるものです。この約30年間、その市場経済の影響が北朝鮮国内で目だって増えて来たのです。全国各地に市場があり、驚くほど活発です。私は何回も、平壌のみならず、あちこちの地方都市でこの事実を自分の目で見て歩いてきました。どこの都市でも、その背景にChinese capitalism(中国資本主義)の影が、見えるのです。