文春オンライン

東京・下北沢にある“グラブ好きの聖地” 店長のあふれんばかりの思い

文春野球コラム ウィンターリーグ2019

2019/01/27
note

新店舗に盛り込んだ“もうひとつ”の特色

 澤木の努力が実り、移転後の“新グラブブルペン”も好評を得ている。「ウワサを聞いて、一目見たかった」と全国各地からの来店があるだけでなく、レイアウトの参考に同業他社が訪れることも少なくない。

 また、新店舗移転時に、“もうひとつ”の特色も盛り込んだ。

「現在の店舗では、“畳”のスペースを設けています。かねてから“和”の要素を盛り込みたいと考えていたのと、畳ならお客さまが靴を脱いで、くつろぎながらグラブに向き合うことができると思い設置しました。それと、畳はグラブと同じく経年変化するもの。店とともに育っていく、その移り変わりも楽しんでもらえたら、と考えています」

ADVERTISEMENT

現在の店舗へ移転した際に琉球畳を設置した

 手塩をかけて生み出した空間で、グラブを通じて生まれる“笑顔”が澤木のやりがいのひとつだ。

「学生がグラブを選ぶときに、2、3人で一緒に来てくれることが度々あります。選んでいる本人の横で『こっちのがカッコいいんじゃないか?』、『オレはこの色が好きだな!』と、本人以上に周りが盛り上がっている光景をよく見かけます(笑)。悩んでいる本人、付き添いで来た友人たちみんなが、それぞれ“いい顔”をしている。そうやって、グラブを通じて生まれる楽しい時間に立ち会えることが、僕の生きがいですね」

座右の銘は「人道即球道」

 グラブブルペンの中には、「左投げ用」のグラブだけが並ぶ棚も存在する。これも「左投げのユーザーにも“選ぶ楽しさ”を味わってほしい」という思いがあるからだという。

「以前左投げの方から『左投げ用ってこれだけですか?』という質問をいただいたことがありました。左投げのお客さまにも、右投げの方と同じく、『どれにしようかな?』と選ぶ楽しさ、悩む喜びを味わってほしいと思い、なるべく多くの種類を在庫するようにしています。限られたものから消去法で選ぶのではなく、『これだ!』と思えるものに出会ってほしい。そのお手伝いをしたいと常に考えています」

左投げ用グラブが一面に収められた棚 提供/井上幸太

 店長として奮闘する澤木には「人道即球道」という座右の銘がある。

「野球界では『球道即人道』が有名ですよね。でも、僕は逆じゃないかと感じていて、『野球人である前に、人としてどうあるか』を大切にしていきたいと思っています。僕自身、大学まで続けた野球から数多くのことを学ばせていただいて、今があるのは間違いありません。プレーの上達だけでなく、野球を通じて人間的にも成長してほしい。この思いを、道具選びを通じて伝えていきたいと思います」

 新品のグラブが放つ新鮮な革の香りと、店長の溢れんばかりの思いが生み出す“異空間”。そこには、出番を待ちわびるグラブたちと、野球を愛する者たちの熱気が広がっている。

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ウィンターリーグ2019」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/10548 でHITボタンを押してください。

HIT!

この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。

東京・下北沢にある“グラブ好きの聖地” 店長のあふれんばかりの思い

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春野球をフォロー
文春野球学校開講!