伊藤智仁は、人を驚かせるのが好きだと思う。一昨年、ヤクルト退団後に、突然富山GRNサンダーバーズの監督就任を発表したり、文春野球アワードでサプライズ登場したり。そして昨秋、「楽天の投手コーチに招聘」というニュースも突然だった。

 一昨年の文春野球ウィンターリーグで、私は「伊藤智仁は何故『BCリーグ監督』就任を選んだのか」というコラムを書いた。BCLの現状を踏まえた上で、富山で彼が何をするのか楽しみだと書いた。昨年何度か富山に足を運び、生き生きと監督業を楽しむ彼を見た。それだけに、数年は留まることを期待していた。

 僅か1年。伊藤智仁は富山に何を残したのだろう。

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 目に見える結果としては後期優勝を成し遂げ、湯浅京己(阪神6位)、海老原一佳(日ハム育成1位)の2選手をNPBドラフト指名に導いた。5月に西武に移籍したヒース、DeNAに復帰が叶った古村徹と合わせればNPBに4人。充分な実績だ。残る選手達は何を受け取ったのか。そして二岡智宏を新監督とするチームは、それを今後どう生かしていくのだろうか。伊藤智仁とサンダーバーズをもう少し知るために、1月の富山を訪ねた。

篠塚和典氏との対決時のマウンドに立つ伊藤智仁前監督

選手・コーチが語る伊藤前監督

 常に伊藤前監督の傍らにいた野手コーチに話を聞いた。大士コーチ(33)は地元富山出身で、選手として在籍した後2014年からはコーチを務めている。入れ替わりの激しいチームの中では貴重な古株だ。伊藤前監督について「現役時代を知らなかったのでは?」と問えば「ゲームで使ってました」と笑う。「伊藤智仁を使うと三振取れるんですよ!」。そんなレジェンドに、最初はコーチや選手たちも接し方を迷ったようだ。しかし監督の方からぐいぐい来るので、馴染むのは速かったという。

「BCLの日程には苦労していました。NPBなら3連戦があれば同じ場所ですが、僕らの場合は1日ずつ試合と移動の繰り返しになることもある。移動にも新幹線などは使えません。それはかなりきつかったようです」

 投手に付きっ切りで指導をする場面は見たが、野手へはどんな風に接していたのだろう。

「配球など投手目線からの指導はありました。前は野手出身の監督だったので新鮮でしたね。この投手はこのカウントならこうくる、とか」

気さくな監督も、厳しさを感じる場面はあったという。

「『これが出来ないと使わない』というようなことははっきり言っていました。やはり投手には厳しかったです」

 昨年キャプテンを務めた河本光平内野手(24)は、「キャンプ前の自主トレで『声出させろ!』と活を入れられましたが、監督を怖いと思ったことはないです」と言う。

「ヤクルトの選手はこういう練習してたよ、とか、この動画見るといいよ、と教えてもらいました」

 河本は鈴木尚広氏の動画を研究し、2018年には盗塁数を倍増させている。

昨年キャプテンを務めた河本光平

「キャプテンとしては、チームを代表する選手だから模範となるように、と言われました。野球以外でも手本になるように、と」

 昨秋のドラフト時、河本はチームメイトが指名される横にいた。悔しい経験だが、伊藤前監督には「あと1年頑張れ」と励まされたという。