春季キャンプはルーキーたちの見本市だ。主力よりも新戦力にどうしても目が行きがちで、特にドラフト1位となればその一挙手一投足にメディアもファンも注目する。
今年のホークスは4人のルーキーがA組スタートを切った。これは筆者がルーキーライター(当時は『月刊ホークス』編集者)だった'02年以来で、じつに球団17年ぶりのこと。あの時の4人は寺原隼人、杉内俊哉、飯島一彦、養父鉄だった。
今年の甲斐野央、杉山一樹、板東湧梧、奥村政稔。全国で大々的に報じられている感じはしないものの“名より実”といった具合で、今季の確かな戦力として面白い存在になってくれそうな投手ばかりである。
そんな彼らも、来年の今頃はどのような見方をされているだろうか。やはりプロ野球は実力の世界。2年目以降はアマの実績などほとんど関係なくなる。
戸惑い、悩み、苦しむ かつてのドラ1
ホークスではB組限定でキャンプ恒例の朝の声だしが行われている。連日大賑わいのホークスキャンプとはいえ、B組を朝一番から熱心に見るファンは多くない。ほとんどの報道陣も第2球場にわざわざ足は運ばない。
若鷹たちが作った輪の中、その時、高橋純平は強張った表情で声を大にした。
「4年目になります、高橋です。昨年までの自分は色んなことに挑戦しましたが、少し迷ったような形で終わってしまいました。もしかしたら、(今年で)最後という危機感を持ちながら、毎日を充実させていきたいと思っています」
ドラフトの目玉と呼ばれ、中日、日本ハム、そして福岡ソフトバンクホークスの3球団が1位で競合したあの頃の彼は既に原石ではなく光り輝く宝石だと、誰もが信じて疑わないピッチャーだった。
そのはずだったのに、プロ入り後3年間で一軍登板は2年目に投げた1試合しかない。なかでも昨シーズンは散々だった。2軍での成績が26試合1勝6敗1セーブ、防御率6.46。これでは一軍からお呼びがかかるはずもなかった。
昨年取材した中でとても悲しい気持ちになった試合がある。7月19日のウエスタン阪神戦(タマスタ筑後)。1回1/3で9失点と大炎上した。
初回に四球と死球でピンチを招くと高山俊に先制2点二塁打を献上。続く2回、修正どころか目の前で繰り広げられたのは、惨劇だった。先頭の西田直斗にいきなり一発を浴びた。さらに安打と2四球で1アウト満塁から江越大賀に3点二塁打を許すと、またしても四球で走者をためてトドメは板山祐太郎の3ラン本塁打だ。この回だけで一挙大量7失点。ベンチはたまらずタオルを投入した。
こちらも仕事で足を運んでいる身なので、試合後の高橋純を引き留めようとしたが「すみません。今日は答えることがありません」と消え入るような声だけ残してクラブハウスに入っていった。普段は気持ちよく応対をしてくれる右腕である。それを知っているからこそ、こちらもさすがに申し訳ない気持ちになった。
戸惑い、悩み、苦しんだ。そんな姿を何度も見た。
「1年間で4度もフォームを変更しました」
自主トレでは、やり投げのように投球の際にグラブを嵌めた左手を顔よりも高く上げてみた。シーズンに入ると春先はセットポジションで投げていたのだが、途中から突然振りかぶるようになり、左足も極端に高く上げていた。その後はまた投げ方を変えるなど試行錯誤を繰り返した。