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男優デビューは「自傷行為」だった

 その当時の思いを、彼は「もうやけくそでしたね」と語る。「誰かに自慢しようとか、そういう思いは一切なくて。自傷行為として『男優やってやる』みたいな感じでした。誰にも言わなかったです。本当に誰にも相談せずに、こっそり始めたんです」

 新人AV男優の仕事は、まずは脇役、いわゆる“汁男優”から始まる。「やけくそ」で飛び込んだ世界だったが、慣れないながらも少しずつ現場を重ねるにつれて、3ヵ月ほどが経ったころには、すでに月の半分が男優の仕事で埋まるようになっていた。そして、徐々にやりがいや充実感も覚えるようになったある週末、森林は筑駒ステージ班のOB飲み会に足を運んだ。

 

「なぜか涙が出てきて、自分でも止められなくて」

「ステージ班っていうのは、文化祭が大好きなわけです。僕も、今でも文化祭のチラシを持ってるくらい。それで大学生になると、みんなで筑駒の文化祭に行って、後輩のステージを見て、そのあとに飲み会をやるという伝統があるんです。浪人時代は行かなかったんですけど、僕も大学に入ったから行きました」

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 飲み会には、大学3年生や4年生の先輩もいた。現役で大学に入った友達は既に2年生。みんなで楽しく飲んでいると、話題は自然と「就職活動」に移っていった。「大学4年の先輩とかに、僕の友達が就職の相談をしてるんです。どうしたらいいですかね、って。それで先輩たちが『あそこは先がないからやめたほうがいいな』とか『とりあえず国一受けとけ』みたいなことを言ってるんです。そんな話をしていたら、僕、突然泣き出しちゃったんですよ。なぜか涙が出てきて、自分でも止められなくて」

 

 そんな森林の姿を見て、周りは「今の会話で泣くところなんかないだろ」と驚いたという。しかし、涙は一向に止まらない。とうとう森林は友達に掴まれて、店の外へと連れ出された。

もう自分は筑駒という“安全圏”にはいない

「そこで『どうしたんだよ』と。そのときに、『みんなに内緒にしてることがあるんだ。……実は俺、AV男優をやってるんだ』って初めてカミングアウトしたんです。筑駒の人は就職するにしても、自分たちならどこにでもいけるだろう、って意識がやっぱりあるんです。だけど、AVの世界に入った僕はもう、そうした“安全圏”からは外れてしまった。こっそり男優をやってる中では自覚しきれていなかったそんな部分を、初めて認識したんです。自分には、普通に就職するなんて選択肢はもうないんだ。みんなとは違う世界に行ってしまったんだ、と……」

 

 彼の言葉を聞いて、友達は「やめればいいじゃん。早くやめろよ、そんなの」と返した。しかし、森林はそこで頷くことができなかった。「確かに自傷行為で始めてはいるんですが……でも、自傷行為って、生きている実感が欲しくてするものですよね。僕も生きがいみたいなものが欲しかったんだと思うんです。どんな仕事でもそうかもしれないけど、たとえ汁男優の仕事でも、うまくいくとやっぱり褒められるんですよ。だから、仕事をして、褒められて、お金をもらえてって喜びは、もう知ってるわけですよね、この3ヵ月くらいで」

 その思いを聞いた友達は、「じゃあお前が決めろよ。でも、早くやめろよ」と声をかけた。