手紙を通じた“お客様との交流”
――同じ出来事でも、お客さんによって捉え方が全く違ったんですね。
女将 もちろんお怒りになるのが当然なのに、それでもこういう風に受け止めてくださるお客様がいらっしゃる。そのときに、なんて言うんでしょうか、私もこうしたことが言える人間になりたいなと思いましたし、うちにはそういうお客様が来て下さるんだから、不備があってはならないと強く思った出来事でした。
他にも、団体のお客様が集中すると、お風呂が混むんです。そうすると、お風呂場から乾いたタオルを握りしめて戻ってらっしゃるお客様がいて、それを見ると「あ、入れなかったんだ」と私も気づくんです。それで「混んでましたか。申し訳ありません」って謝ると、「なあに、大丈夫。また後で来るかね。賑わってて良かったね」なんて仰ってくださる方もいて。うちは上野という土地柄か、新潟県からのお客様が一番多いんですが、特に新潟のお客様には本当に良くしていただきました。
――女将はよく、お客さんにお手紙も書かれると伺いました。
女将 お礼状はよく書きますね。書き出しは「こんにちは」から始めて、いわゆる手紙の型にはめずに、素直な気持ちをしたためるようにしています。3年連続で、息子さんご夫婦とお孫さんと一緒に、鴎外荘の五月人形の前で記念撮影をされたご夫婦がいらっしゃるんですが、その方たちはご自宅に帰られると、必ずホッケを送って下さるんです。大変恐縮なのですが、そうしたときにお礼状をお出しします。
「人は人でしか磨かれない」
――改めて22年間の女将としての日々を振り返って、何を思われますか?
女将 そうですね……。実は、最初は女将という仕事は私にはできないなと思っていたんです。できることならば、すぐやめるつもりでしたから(笑)。
――え、意外です。“女将”が天職のようにお見受けしますが?